仮想世界。それはマンガやアニメの中でよく描かれてきた、未来の産物のはずでした。
しかし今、その仮想世界に私たちの手が届きかけているとしたら……!?
今回は「仮想現実の可能性」について、「MikuMikuSoine」の開発者で現役学生のねぎぽよし(※ハンドルネーム)さんにご寄稿いただきました。
 初音ミクとの仮想現実世界

 去年の夏、「OculusRift」というHMD(ヘッドマウントディスプレイ)(*1)の開発者向けデバイスが出荷された。これは高視野角、ヘッドトラッキング(頭の動きに表示が追従する)という特徴を持ち、高い没入感を再現したバーチャルリアリティに特化したヘッドマウントディスプレイである。最近では開発者向けデバイスの新型が出荷されたり、東京ゲームショウで製造元であるOculus VR社のブースが盛況であったことも話題に新しい。

 そして去年の夏、私はそのOculusRiftを利用したコンテンツを製作、動画を投稿した。それは「仮想空間で初音ミクと添い寝ができる」というものである。体験は簡単だ。利用者はOculusRiftをかぶりベッドに寝転がる。そして少し横に目を向ければ初音ミクが微笑んで横に添い寝しているというものである。

 

 読者の中にはそのシステムのどこが良いのか理解できないという人もいるかもしれない。私自身このシステムは何かを訴えかけるために作ったわけではなく、自分が初音ミクのことを好きだったから作っただけという安直な理由であり、そこに何の見返りも求めていなかった。

 そういうわけでこれのどこがいいのかピンとこない人がいるのも仕方のないことである。しかし、結果的にこのシステムはインターネット上で様々な反響を呼んだ。動画は10万再生を超え、このシステムに対して数件取材依頼が来たり、アメリカやインドネシアなど国内だけではなく海外の初音ミクファンからもメールで応援のコメントが来たりと様々である。

 また国内の様々なイベントで添い寝システムを展示し、体験者の皆さんのリアクションを間近で見ていて大変微笑ましかったのを覚えている。ただ笑顔になる人、キャラクターがいる方向へ虚空に手を伸ばす人、横に抱き枕を用意して実際に触れてる感覚を再現する人。様々な人がいた。

 これを見て「物質として存在しないデータに対して、脳が"存在"という付加価値をつけている」ということを実感した。

 言ってしまえば私が作ったシステムはキャラクターの3Dモデルデータにモーションを付けてそれを映像に出力しているだけのものである。例えばそれをパソコンなどのディスプレイで見るだけなら、こういった虚空に手をのばすといった反応は起きなかっただろう。何が初音ミクを"存在"させたのか。

 これには没入感の寄与が大きく関わっていると思っている。最初に述べたようにOculusRiftは高い没入感を誇るHMDである。視野角の広さ、低遅延(*2)のヘッドトラッキング、魚眼レンズと逆補正(*3)、それらが組み合わさった果、没入感が生まれ視覚だけではあるものの実際に初音ミクがそこにいる感覚というものを作り出している。

 実際に添い寝システムの体験者から話を聞くと、ミクがそこにいる!という感想はもちろんのこと、ミクがこっちを見つめてて恥ずかしくなった、本当に添い寝してるかのような安心感のようなものを感じた、という感想をいただいている。

 OculusRiftの特徴として、こうして言葉を並べてもやはり一度体験しないとその凄さがわからないという点がある。現在では添い寝以外にも様々なOculusRiftコンテンツ、そしてそれらの体験会が開催されているので、私の言う没入感が一体どのようなものかというものは、是非体験していただければと思っている。

*1……ゴーグルやヘルメットのような形状をした、頭に装着する表示装置。

*2……実際の頭の動きに対して映像の反応に遅れがある場合、結果はひどいVR酔いとして現われてしまう。OculusRiftはこれを低減するための工夫をふんだんに取り入れている。
*3……OculusRiftは映像を樽型に歪め、それをOculusRiftに搭載されている魚眼レンズで補正することで、人間が広い空間で歪みなく見えるように感じさせることで「広視野角」を実現している。