Q.現役時代、最も悔しかった登板を教えてください

 悔しい登板は数多くあります。誰でもそうでしょうが、故障をしたり、勝てない時期などはくじけそうになります。ただ、プロ野球選手のみならず、仕事をしている限りは現実から目を背けてはいけないのではないでしょうか。

 私自身、くじけそうになったことは多々あります。

 そこまで感情的に追い詰められたのは、2006年の日本シリーズでした。私はこの年に11勝。9月16日の阪神戦では最年長ノーヒットノーランを達成するなどパフォーマンス自体は悪くありませんでした。

 ですが、日本シリーズを前にして状態は万全かと言えば、そうではありませんでした。シーズン終盤に左ひじを骨折してしまったのです。私は医師の登板禁止命令を振り切り、チームにも故障を隠して日本ハムとの日本シリーズ第2戦に登板します。

 その結果、2対1と中日リードの7回に、金子誠選手に逆転タイムリーを打たれてしまいました。
「もう、無理だ……」
 悲痛の思いを抱いたまま私はベンチに下がりました。私は、日本シリーズでは1勝もすることなく引退しました。今思えば、この登板が最大のチャンスになるかもしれないことを、自分でもわかっていたのでしょう。
 

 

 この日に限らず、私は581試合の登板で、マウンド上では一度たりとも「楽しい」と感じたことがありません。5点差以上の差がついていて、勝利がほぼ間違いない状況であれば少しは安心しましたが、楽しくはなかった。勝利した後や、優勝した過程を振り返るほうが楽しかったです。

 だからこそ私は、現役時代は「どんなコンディションでも最低限の仕事ができうるように準備しよう」と自分に言い聞かせ、地道にトレーニングを積んできたつもりです。それが精神安定剤になっていたのかどうかは分かりませんが、少なくとも「自分はこれだけのことをやってきたんだ」と自信を持つことができる。もし「逆境をはねのけられた秘訣は?」と聞かれれば、私は「地道な努力です」と答えるでしょうね。