イラスト/フォトライブラリー

筆者が中学生くらいのころまで、妾のことを「二号さん」と称していたような記憶がある。しかし、二号さんはすでに死語になったようだ。現在はなんと呼ぶのだろうか。愛人やセフレ(セックスフレンド)はあちこちで使用されているが、妾とは違う。セックスにはもっぱらホテルを利用するか、男が女のマンションに通う形式が多いであろう。妾の場合は、男が住居を用意してやり、生活費も支給する。そのぶん、男の責任は重い。男はまさに「旦那」であり、妾は「妻二号」だった。

さて、江戸時代、妾は囲者(かこいもの)ともいった。男が遊女や芸者を身請けして妾に、あるいは年季を終えた遊女を妾にすることもあったが、多くの場合、口入屋を通じて妾を雇った。女の側からすれば妾奉公であり、妾は女の職業のひとつだった。口入屋があいだに入って期間と給金を取り決め、きちんと契約書も取り交わす。給金は2カ月契約で高い場合は5両、安い場合で2両くらいだが、武家屋敷・商家の下女奉公にくらべるとはるかに高給だった。

ただし、旦那が「普通」であれば、である。前回(第44回 腎虚と腎張)、腎張について述べた。旦那が腎張(精力絶倫)だと、妾奉公はとたんに苦行となった。そんな妾の苦労が、春本『祝言色女男思』(文政8年)に描かれている――。

口入屋で紹介された旦那は高齢だったため、妾は内心、
「どうせ、あちらのほうは滅多にあるまい。楽をして金が稼げる」
と、喜んでいた。ところが、旦那は高齢にもかかわらず異常な腎張だった。金を払ったのだからしなければ損だとばかり毎晩、女の体を求める。しかも一回では終わらない。さらに、本取りだけでは満足せず、いろんな曲取りまで要求した。本取りは正常位、曲取りは変わった体位や変態行為である。疲れ切った妾は、
「年寄のくせに豪儀に達者だよ。毎晩毎晩、こんなにされては、どうも続かねえ」
と、もう体が続かないと嘆く始末。とくに、口吸い(キス)は耐え難かった。
「口を吸われるときは、まことに身を切られるよりせつない。金がほしいからあんなじじいに自由になるようなもの。もう、きたならしい。好かねえじじいだぞ」

旦那は口臭がひどかったようだ。高齢だけに歯槽膿漏でもあったのだろうか。もちろん、春本独特の誇張やふざけもあるのだが、前回述べたように世の中にはすごい腎張もいる。旦那の連日連夜の要求にへとへとになった妾もいたであろう。