トランプ次期米国大統領が、来年1月の大統領就任とともに、TPPの不参加の表明を示唆している。TPPそのものが、アメリカ抜きでは意味を成さないというのが大方の見方であることからも、いったいこれまでのTPP論争とはなんであったのか? という疑念が沸いても不思議ではない。ここで、「TPP回避こそが、日本にとっての最後のチャンス」ではないかという見方をしているのが、『地産地消の生き方』 の著者、島﨑治道(元・法政大学大学院「食と農」研究所・副所長)氏だ。まずは、食物100%自給自足、『地産地消』の国を目指すべきであるという、その持論について引用してみたい。
 

◆「食の国際化」は経済格差を拡大する。
「食の国際化」は、
国内の経済格差を広げるのみならず、
国家間の格差を広げていく。

 たとえば『世界食料白書』(2005年)では、「25%の先進国の人々が全世界の45%を消費し、75%を占める開発途上国の人々には、55%の食料しか提供されていない」とすでに警告していました。
 「食の国際化」とは、食料が国際的に売り手市場となることです。食料を輸出する国が多くなれば、競争原理が働き食料は買い手市場になりますが、食料の輸入を望む国が多くなればなるほど、食料輸出国は寡占化され、売り手市場に拍車をかけます。
 農産物価格は、関税と輸出補助金の両面から決められるため、実情とは異なり、歪められて低く抑えられています。
 しかし、関税がなくなれば、輸入量が増加し、売り手市場となります。また、食料輸出国の輸出補助金が削減されれば、輸出量が減少し、需給バランスが崩れ国際価格は必ず高騰します。
 食料輸入国は、自国で食料を生産するより、安く買うことができるため、自国の農業を衰退させてしまった結果、食料輸出国の言いなりになるより他に道はなくなります。

 特にアメリカは、食料を戦略物資と考えています。他国を支配するためには、戦争で勝利して支配下に置くより、食料を国の財政から支出してでも、安く売って支配する方が安くつくという国家戦略です。
 例えば、2003年のイラク戦争で、アメリカは国家財政に悪影響を与えるほどの出費をしたにもかかわらず。国民の意向や国際社会の目があり、全権支配を断念しました。
 しかし、食料をコントロールするだけで他国を支配下に置いた場合は、たとえ支配下に置かれた国が自滅したとしても、国際社会は国際問題にはしませんし、輸出国の国民も国に対して批判することもありません。
 理由は「食」を依存する方が、悪いと考えているからです。
 
 食料は、文明が造り出した便利な製品とは異なり、毎日食べ続けなければ、生き続けることのできない、経済活動の範疇には収まらない生命維持産業です。
 ゆえに、食料輸入に当たり、立派な契約書を輸出国の生産者と交わしても、輸出国の食料生産に問題が発生すれば、国は食料の輸出禁止令を発令します。いかなる契約書でも無効となります。それは、1955年にわが国が批准したガット(関税貿易一般協定)の条項にて「輸出国で危機的な食料不足が起これば、輸出禁止や規制を行うことを容認する」としていますし、そもそも食料は生産国のもののため、各国が独自に決めています。
 食料の輸出国にとって輸出量は、国のさじ加減で決まります。大量に輸出したい場合には、輸出補助金を増額すれば輸出量は増えます。輸出量を減らしたい場合は、輸出補助金を削減すれば必ず減ります。
 2001年、当時のブッシュ大統領が教書のなかで「食料自給は、国家安全保障の問題であり、それが常に保証されている国は有り難い。食料を自給できない国を想像できるか。それは国際的圧力と危険にさらされている国である」と、本音を述べています。
「食の国際化」は、食料の輸出国が政治的にも経済的にも、より強くなり、食料輸入国は、より弱い立場になることで、国家間の経済格差は広がります。
 弱い立場になった食料輸入国の国内経済は、一層格差が拡大し、一握りの富裕層と大多数の貧困層という社会構造となり、危険な国へと変貌していくのです。

「TPPに参加すれば、わが国の食料価格は下がり、輸入により永続的な食料確保は可能」と政府やマスコミは喧伝していました。果たしてそれは、本当なのでしょうか。
 これから先10年、否50年、100年先まで、食料輸出国が輸入国に対して、安定した食料輸出が可能だとは到底考えられません。
 食料輸入国にとって「食の国際化」は、何の見返りもない戦争の火種になるというリスクを負うことになるのです。

 

 

◆種子を押さえる者が、世界の食料を制す

「食の国際化」は、地球規模の危機を招いています。その政治的なターニングポイントとなったのは、1987年にアメリカのレーガン大統領(当時)が予算教書において、初めての農業保護削減政策構想として、農産物の価格政策と農産物の所得政策を切り離す、デカップリン政策を示したことでした。
 農業生産を刺激する価格政策をカットし、価格は市場原理に従うという新保守主義を、アメリカのレーガン大統領を筆頭に、イギリスのサッチャー首相、ドイツのコール首相が一致して推進し、国際的な市場の開放と拡大を図ったことが、今日の「食の国際化」に至る始まりでした。
 価格政策と所得政策を切り離したデカップリング政策が、国際間の格差を拡大させ、食料輸出国と輸入国を明確に区別する結果となりました。
 こうした「食の国際化」を見据えて、ドイツ・イギリスは穀物の自給体制を確立し、自立国家としての要件を満たしています。
 引き替えわが国は、中曽根政権時代に農業叩きが始まり、農業無用論が大きな影をなげかけることになりました。コメの減反政策では100万ヘクタールを越える田んぼを休田にして、生産調整(減反)をした農家には保障金が支払われました。その上、法律違反である耕作放棄地も約40万ヘクタールも存在しています。

「種子を押さえる者が、世界の食料を制す」と言われていますが、その種子の売上高世界1位の米モンサント社、穀物商社の米カーギル社などの巨大企業は、政治の方向を決める力を持っていると言われています。
 遺伝子組み換え作物を武器にモンサント社は、政治力を背景に北米から始まり、南北アメリカ、そしてアジア、アフリカへと世界の食料を制する勢いです。

 TPP参加回避は、日本に与えられた最後のチャンスです。
 わが国は現在、イギリス・ドイツ・フランスから学び、「食の国際化」から「食の地域化」へ政策転換をし、戦争の火種を消すことのできるラストチャンスにあります。今までの「食」の中央集権化を地方に分権し、権限とお金を地方に委譲すれば、地方自治体主導で『地産地消』を具現化することが可能となるのです──。