習近平国家主席

可能なら避けたいネガティブシナリオ

 

 昨日前述した二つのシナリオに比べれば、実現となれば日本も無傷ではいられない事態も予想しておこう。

 比較的可能性が高いとみられているのは、クーデターや暗殺といった軍部による政権転覆である。何があっても不思議はないリスクを中国がはらんでいるということを忘れないでほしい。南シナ海や東シナ海の軍事挑発行動が失敗に終わり、軍のメンツがつぶされたことがきっかけで軍内の不満の矛先が習近平に向かうかもしれない。そうなると、ポスト習近平の座は、軍事政権が掌握する可能性もあるし、あるいは首相の李克強や副主席の李源潮[一九五〇~/中国共産党第一七・一八期中央政治局委員。共青団出身]が臨時に主席代理を務める可能性もあるだろうが、どちらにしても社会・経済の不安化は歯止めが利かなくなり、混乱期が続くだろう。

 たとえば東トルキスタン独立勢力やチベット独立勢力が、これを好機と捉えて行動を起こしたり、社会不満分子が反乱を起こしたり、民主化運動が起きたり、といった事件が続くことになるやもしれない。財産とコネを持つ官僚たちの国外脱出や、国民の移民ラッシュに拍車がかかることになるだろう。難民という形で周辺国家に不安定化を輸出することになるかもしれない。

 もう一つもかなり可能性が高いシナリオだ。権力闘争は激化しながらも、習近平に引導を渡せるだけの政治勢力も存在せず、習近平は総書記・国家主席・党中央軍事委員会主席の地位を維持したまま集団指導体制二期目を迎える。つまり、本来予想されていた展開である。

 政治局常務委員七人のうち李克強を除く引退年齢を迎える五人は入れ替えられ、新たに胡春華、孫政才といったポスト習近平と目される若手も入り、また習近平のお気に入りの部下である栗戦書らが入る可能性もある。

栗戦書

 ただ、政治改革に着手されることはなく、相変わらず激しい権力闘争が継続され、経済政策も外交政策も大きな転換を迎えることができない。言論統制と知識人迫害も強まりつづけ、社会の閉塞感がいっそう深まる。中国は長い低迷期に入り、悪性インフレが起き、金やコネのある人たちから海外脱出をはかるだろう。

 国際社会での孤立化をいっそう深め、シロアリにむしばまれた大木のように、外からの姿は大国だが、内実の伴わない空洞な国家として余命を消費していく。そして共産党への求心力が落ちるところまで落ち、経済の悪化によって中国の治安維持力が落ちるところまで落ちたところで、社会の低層の〝反乱〞、あるいは労働運動や権利擁護運動によって政権の転覆、あるいは体制の変革が進められるかもしれない。政権側は最初はこれを治安維持力で鎮圧しようとするかもしれない。

 そうすると天安門事件のような流血沙汰が再び起きる。中国人民の命がけの抵抗を経て、ようやく中国が生まれ変わることができる。

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