カジノ解禁に向けた「統合型リゾート(IR)整備推進法」が自民党と日本維新の会などの賛成多数で可決・成立。果たして、カジノは本当に日本経済を復活させるのか? 『カジノ幻想』(ベスト新書)の著者、鳥畑与一氏が「カニバリゼーション」から読み解くカジノの正体とは?

カジノのマイナス面の評価がなされていない

 カジノ・ギャンブルという「サービス商品」を生産(提供)するためには、カジノ施設の建設やゲーム機器などへの需要が発生し、施設の運営・保守管理やゲーム操作を行うディーラーやレストラン、ショップ等の従業員などの労働力を必要とする。この側面では需要と所得を生み出し、一定の経済的波及効果を生み出す実体のある経済活動であり、カジノ産業全体が「虚業」というわけではない。
 しかし、ギャンブルの生産という非生産的活動に大量の労働力や様々な経済的資源が投入されたとしても、それは実体経済の効率性を高め、様々な富の生産を通じて人々の生活を豊かにするものではない。むしろギャンブルに消費される時間や経済的資源を増やすことで、経済全体の生産性を低める結果となる。
 さらに、カジノ・ギャンブルは賭けを通じたポケットからポケットへのお金の移動でしかないということは、カジノ側の利益の裏返しとして、ギャンブルで所得(購買力)を失った側に損失が発生するということを意味する。実際、米国では、カジノ開業により既存の宝くじなどのギャンブル売上や周辺地域での消費減少といった「カニバリゼーション」(共食い)が発生することが広く認識されている。


 米国ではカジノの経済的影響については、①地域外からのカジノ客獲得によるギャンブル消費やその他宿泊・飲食等の消費による「目的地効果」(デスティネーション効果)、②地域外のカジノを利用していた住民が地域内のカジノを利用することによる所得流出の阻止による「再獲得効果」(リキャプチャー効果)、そして③地域内の住民のカジノ支出の増大の結果、地域内の他の経済活動や消費に対する支出が減少することによる「代替効果」(サブスティテューション効果)が指摘されている。この「代替効果」がいわゆるカニバリゼ
ーションと呼ばれるカジノの経済的影響である。
 要するに特定の経済圏(国または地方自治体等)内の顧客によるカジノ・ギャンブルは、その経済圏内での所得の移転でしかなく、カジノの繁栄はその周辺の経済活動を犠牲にしたものというわけである。

 

 

 米国においてカニバリゼーションの規模については、産業構造や地域特性で差があり様々な推計が行われている。たとえば、表2‐1に見るようにニューハンプシャー州では、州内を5つの地域に分け、隣接するマサチューセッツ州からの顧客が期待できる南部や、州外からの顧客が期待できない北部などでのカジノ開設の州財政への影響を推計した。


 その結果、カジノ収益への60%近い「代替効果」(共食い)で地元の消費が落ち込み小売業や飲食店が淘汰されるため、カジノが創出する雇用増の70%に相当する失業者が生まれる地域が存在すると推計している。カジノからの税収増の一方で、既存の宝くじ等からの税収減やギャンブル依存症者関連の社会的コストや州財政の負担の結果、期待された効果は少なく、さらに州財政にとって負担増となる地域が発生するというのである。
 

 

 日本でも多くのカジノによる経済的波及効果の推計がなされているが、それはこのカニバリゼーションを無視した一面的な推計となっている。たとえば、大阪市におけるカジノの経済的波及効果の推計(表2‐2)では、カジノ収益約367億円は周辺60キロ圏内に居住する1500万人中92万人が毎年カジノで一人4万円負けるという計算の結果である。


 カジノによる飲食・宿泊や関連産業への経済波及効果を含めると総額で約708億円に達するとされるが、これは裏返せばカジノ周辺60キロ圏内の住人から約367億円の所得をカジノが吸い込むことを意味している。
 カジノによる約708億円のプラスの経済的波及効果の一方で、周辺自治体では市民の所得がカジノに吸収された結果、地元での消費や税収が減少することでマイナスの経済的波及効果が生まれることになる。
 このマイナスの経済的波及効果を無視して、プラスの経済的波及効果のみを強調するのは、カジノの経済的影響の一面的な評価でしかない。