東京裁判開廷70年。「米国人弁護士が『断罪』東京裁判という茶番」を上梓、来日から40年日本を愛し、知り尽くしたケント・ギルバート氏が米国人の視点からみた東京裁判について論じていく。

 極東国際軍事裁判、いわゆる東京裁判は、裁判を主導したアメリカ側の当事者も、実際に裁判に携わった判事や、弁護士も、「裁判とは言えないものだった」と、認めている。
 どうして、そんな不条理な裁判がまかり通ってしまったのか。

靖国神社にて 撮影・末松正義

 連合国側の諸国も、また他の世界各国も、そして、当事国である日本も、改めて検証する必要がある。
 戦争を「犯罪化」する動きは、第一次世界大戦直後に遡る。
 多大な犠牲者を出した、世界大戦の惨劇を二度と繰り返さないために、一九二八年にパリ条約が締結された。日本では、「パリ不戦条約」として知られるものだ。戦争そのものを、国際的に、「犯罪」と位置付けて、戦争を、回避しようという試みだったが、ほとんど実効性のないものとなってしまった。
 いずれにしても、第二次世界大戦が終結するまで、『戦争犯罪』とは、戦争における法規や慣例に対する違反を意味した。
 連合国側は、一九四三(昭和十八)年十月二十日に連合国戦争犯罪委員会(UNWCC)を設立した。ユナイテッド・ネーションズ十七か国が集って、敵国の戦争犯罪の証拠調査をするのが、その目的だった。

 日本では、UN(ユナイテッド・ネーションズ)のことを、「国際連合」と和訳している。訳したのは外務省だ。しかし、UNは、正しくは、当時から連合国である。その敵国は、もちろん、日本とドイツ、イタリアの枢軸国だ。UN憲章(チャーター)には、いまだに『敵国条項』が残されている。いまも日本は、UNの敵国とされている。
 UNWCCは、戦争犯罪の証拠調査から一歩踏み出し、終戦が近づくと政策提言をするようになる。オーストラリア代表のライト卿は、対日政策勧告を提言し、その結果、一九四五(昭和二十)年八月八日には、極東太平洋特別委員会が設置され、八月二十九日には、対日勧告が採択されている。

◆日本占領を尊大な態度で演じたマッカーサー元帥

 占領国軍最高司令官(SCAP)だったマッカーサーは、占領された日本では、まさに、天皇以上の存在のように自らも振る舞い、また、日本側もそのように扱った。
 日本人は、マッカーサーを必要以上に「絶対的な存在」として捉えている。彼は確かに、戦後の日本にとって、良いことも行ったが、悪いことも行った。両方を知るべきだ。
 専用機『バターン』号で厚木に降り立ったマッカーサーは、コーンパイプを燻らせ、丸腰で司令官機のタラップを降りて来た。日本の「征服者」か、「将軍」をきどって、あえて丸腰で降りることで、自分たちは日本人による襲撃など恐れていない、という勇気を威風堂々と示す、演出だった。
 
 マッカーサーを必要以上に、「偉大」に思わなかったのは、東条英機元首相だった。
AP通信のラッセル・ブラインズ記者は、占領直後に用賀にあった東條邸を、前代議士だった笠井重治と共に訪ね、マッカーサーをどう思うかと、質問した。
 東條は、「マッカーサーは、フィリピンで部下を置き去りにして濠州(オーストラリア)に逃げた。指揮官としてあるまじき行為だ。良い点数はあげられない」と、答えた。
 通訳をしていた笠井が慌てて、「閣下、まずいですよ。『敵将ながら、なかなかの人物だぐらいにしておきましょう」と言うと、東條は、「適当に訳しておけ」と、応じた。
厚木に降り立ってからも、マッカーサーは統合参謀本部から命令を受けて、占領にあたっていた。

 マッカーサーは、アメリカ陸軍の一将官として、下された命令に従うのであって、特別な存在であったわけではない。
 統合参謀本部から時折出されるそうした命令に、マッカーサーは内容の如何を問わず、服する義務があった。
 一九四五(昭和二十)年九月十二日、統合参謀本部は、マッカーサーに次ぎのように命じた。
「遅滞なく適切な軍事裁判を実施するか、日本人の戦犯を法廷で裁き、罰せよ」
 マッカーサーには、連合国がヨーロッパの法廷で、戦犯をどのように裁くかが、より明確になった段階で、詳細な指令が下されるとも伝えられた。
 ニュルンベルグ裁判は、ドイツ国家を破壊し、その法制度を破棄した連合国側の四カ国緊急合意で実施が決まった。占領軍の権限の根拠は、ドイツでは政府が崩壊しており、無条件降伏となったことだった。
 しかし、日本の場合は、政府は機能していた。
 ポツダム宣言も、日本軍は無条件で武装解除し、降伏することが条件だったが、日本国政府は完全に機能していたし、「以下の条件で降伏する」と、条件をハッキリと提示した、有条件降伏だった。ドイツとは、状況がまったく違ったのだ。
 戦争犯罪人に対する裁判も、当然ながら、当時の戦時国際法に違反した戦闘員を裁くものと認識していた。