習近平国家主席

 

いま南シナ海で起きている現実とは

 

 南シナ海で今、何が進行中かということを整理しておこう。

 南シナ海では今、中国が実効支配を進め、フィリピンやベトナムと領有を争う南沙(スプラトリー)諸島や西沙(パラセル)諸島で軍事拠点化を進めているところである。

 二〇一六年二月、中国はベトナムと領有を争う南シナ海の西沙諸島の永興(ウッディー)島に、地対空ミサイル紅旗9を配置。米国らが抗議するも、自国の領土領空の防衛設備を造るのは当然の権利、とうそぶいた。米保守系メディアFOXニュースが、特ダネとして「解放軍が南シナ海の島に地対空ミサイルを配備した」と報じたのは二月一六日。米民間の衛星画像で確認されたという。FOXによれば、少なくとも二月三日には何もなかったところに、一四日にはミサイル設備が写っていた。

中国は南沙諸島にあるミスチーフ礁に勝手に建造物を造り、フィリピンから実効支配を奪う。

 中華圏における春節(旧正月)祝いムードに冷水を浴びせるように、北朝鮮が弾道ミサイル(人工衛星)発射実験を行ったのが二月七日の除夕(旧歴の大晦日)だが、そのどさくさに紛れて、このミサイルを配備したものと思われる。

 ちょうどそのころ、習近平政権は解放軍の軍制改革に本格着手。従来の七大軍区制を改変して五大戦区の設立を宣言したのが二月一日。旧ソ連式の軍区制が敵を国内に深く引き入れて戦うことを前提にした組織編制であるのに対し、米国式の戦区(戦略区)制は、海外への軍派遣を想定した軍の編成である。つまり、国際社会が北朝鮮の核実験に対する制裁決議を採択するために中国の同意を取り付けようと説得しているのを、のらりくらりとかわしながら、南シナ海に本格的に軍事進出をするための布石を急ピッチで打っていたわけだ。

 配備されたのは紅旗9(HQ–9)という地対空ミサイル部隊二個大隊分のランチャー八基、レーダーシステム。射程距離二〇〇キロメートルともいわれ、ロシアの長距離地対空ミサイルシステムS–300をもとに中国が九〇年代に完成させた自慢のハイテク兵器だ。一台のランチャーから発射されたミサイルは海抜三〇キロメートル上空で二〇〇キロメートル離れた六つの目標を同時に撃破できる。

 この報道を受けて、中国の王毅[一九五三~/日本語、英語に堪能]外相は「おそらく西側メディアの『でっちあげニュース』のやり方であろう」と、米国メディアがあおっているといわんばかりのコメントを当初はしており、また翌日の外交部定例会見でも報道官は「詳しくは承知していない」と言葉を濁した。

王毅外相

 だが、国防部は「南海(南シナ海)の武器配備はすでに何年も前から行っている」と、開き直って事実を認めた。さらに、米戦略国際問題研究所の衛星写真をもとにした分析によれば、南沙諸島のクアテロン礁で高周波レーダー施設と見られるポールが建設されていたという。永興島には戦闘機J–11号が配備されたことも確認された。

 中国国防部がいうように、南シナ海の武器配備は今に始まったことではなかった。

 中国、ベトナム、台湾が領有を主張する西沙諸島は目下、中国が実効支配を固めている。紅旗9が配備された永興島に関しては第二次大戦後、日本がその領有権放棄を宣言したあと、国共内戦で敗走してきた国民党軍が上陸するも、一九五〇年、中国共産党の武装漁民によって占拠された。

 一九五六年までに西沙諸島の東半分が中国の実効支配下に置かれ、西半分は南ベトナム(ベトナム共和国)が実効支配。ベトナム戦争末期の一九七四年、南ベトナムの疲弊を狙って中国が軍事力でもって西沙全体の実効支配を実現。このとき、南ベトナムの護衛艦が撃沈されている。

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