<第7回>

10月×日【美容院 怖い】

僕は美容院がとても苦手である。

まず「どんな髪型になさいますか?」と聞かれる、あの時間が苦手だ。「どんな髪型」もなにも、とにかく歩くだけで女性が「抱いて」と寄ってくるような髪形にしてほしい。それが偽らざる本音である。

しかし「女性が『抱いて』と寄ってくるような髪形にしてください」などと言えるはずもない。「えっと、耳は出して、うしろを軽くしてもらって、あとは爽やかな感じにしてください」というその場で思いついたオーダーをすることになる。鏡の向こうで美容師が「はい。つまり、他人から良く見られたいと思って、このお店に来たんですね」と嘲け笑っている気がしてきて、おもわず目を伏せる。

そのあとの洗髪も怖い。
有無を言わさず、顔に変なサイズの紙だかタオルだかを乗せられる。
あれは、なんなのだろう。「洗髪中に目が合ったら気まずいですもんね」という美容師側の配慮なのだろうか。いや、たぶんシャンプーの飛沫が顔にとばないためにやってくれているのだろうけど、知らない人に髪を洗われて、しかも視覚情報を奪われるというのは、なかなかの恐怖だ。

そして、髪を切っている最中。
これが一番つらい。美容師と会話をしなければならないのだ。雑誌に目を落として一切喋らないという手もあるのかもしれないのだが、僕にはそれは無理だ。「髪を切っていただいているのだから、無言のままでは失礼だ」と無駄に美容師に対して気を遣ってしまう。
結果、美容師の趣味に合わせた、スポーツ(美容師はサッカー好きが多い)や映画(美容師は『ジョゼと虎と魚たち』を好きな人が多い)など、まったく興味のない話題を繰り広げ、疲れきって店をあとにすることになる。

しかし、苦手だからと言って逃げてばかりもいられない。髪が伸びに伸びてしまった。今日中に美容院に行かなければならない。

「美容院 怖い」でグーグル検索。
もしかしたら僕と同じような「美容院嫌い」の同志たちが、ブログなんかで美容院の対策法をアップしているかもしれないと期待する。

すると、「女性客の顔にタオルを乗せた状態で、理容師がバレないようにキスをしていた」という最近のニュース記事が出てきた。

ブラウザをそっと閉じ、そのまま布団に直行した。
しばらくは、美容院に行けないと思う。

 


*本連載は、毎週水曜日に更新予定です。