「保守」という言葉の意味を歪曲しつづけた罪は深い。わが国の総理大臣安倍晋三と防衛大臣稲田朋美。

安倍でもわかる「保守主義」のお話。

 

 保守とは何か。

 ひとことで言えば、「人間理性に懐疑的である」のが保守です。

 抽象的なものを警戒し、現実に立脚する。人間は合理的に動かないし、社会は矛盾を抱えていて当然だという前提から出発する。

 逆に言えば「人間理性を信仰する」のが左翼です。これを一つ下のレベルの話に落とすと、近代啓蒙思想をそのまま現実社会に組み込むことに否定的なのが保守となる。なぜなら、近代啓蒙思想は理性の拡大の延長線上に理想社会を見いだすという発想の下にあるからです。要するに、進歩思想ですね。そこで保守の批判の対象になるのは急進的な平等主義と自由主義です。

 たとえば「伝統の擁護」といった保守の性質も、「理性に対する懐疑」ということで説明できる。非合理的に見える伝統や慣習を理性により裁断することを警戒するわけです。保守が宗教を重視するのも理性の暴走を防ぐためです。

 中間共同体を重視するのは、近代イデオロギーの暴走を抑える緩衝材を必要とするからですね。よって、保守は漸進主義になる。つまり、ゆっくりと慎重に改革を進める。改革というより改善です。保守は、左翼のように平等や人権を普遍的価値とは捉えません。あらゆる価値は、個別の現実、歴史に付随するものであるからです。

 保守にとっては、「自由」でさえ、絶対の価値を持つものではない。

 ついでに言えば、反米、親米、嫌中、嫌韓、改憲派、軍国主義、復古、国家主義といったものは、保守の定義とはなんの関係もない。それらはそれぞれの個人の要素の一つです。納豆が好きか嫌いかは保守であることと関係ない。それと同じ。

 そこが曖昧になっているので、わが国では保守の対極にあるような人たちが「保守」を名乗っているのでしょう。「保守系」と呼ばれる新聞や雑誌で書いている連中でも、真の保守は一割もいないのではないか。

 政治哲学者のマイケル・オークショット(一九〇一~九〇年)が言うように、保守的性向は人間のあらゆる活動に対し、適合的である。そして安倍にもっとも欠けているのが、この保守的性向なのです。

マイケル・オークショット。イギリスの政治哲学者。

 

(※話題のベストセラー『安倍でもわかる政治思想入門』本文一部抜粋)

 

著者略歴

適菜 収(てきな・おさむ)

1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。ニーチェの代表作『アンチ・クリスト』を現代語訳にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『日本を救うC層の研究』、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(以上、講談社)、『死ぬ前に後悔しない読書術』(KKベストセラーズ)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)など著書多数。安倍晋三の正体を暴いた渾身の最新刊『安倍でもわかる政治思想入門』(KKベストセラーズ)が発売即重版。全国書店、Amazonにて好評発売中。