「マジック1」――11.5ゲーム差からの逆転劇を完成させる。そのときファイターズ栗山監督の頭を悩ませたのが、先発投手・大谷翔平の使い方だった。
 打席に立たせるか。それとも投げることに専念させるのか。
 出した結論は、栗山監督の信念を体現したものとなる。
 監督の新刊『「最高のチーム」の作り方』より独占配信。

「翔平が0点に抑えれば勝つんだ」

 マジック1で残り2試合、最後に本拠地・札幌ドームでのマリーンズ戦を残してはいるが、その前に、何がなんでもこのライオンズ戦で決めてしまいたい。ここで決められなければ、逆にやられてしまうかもしれない、そんな不安がどうしても拭いきれなかった。

 

 悩んだのは、先発の大谷翔平を打席に立たせるかどうかだった。DHを解除して打席に立たせれば、確実に得点力はアップする。だが、そうはいっても前日の試合を見る限り、正直、いまのチーム状態で十分な得点は期待できない。

「きょう、勝つんだ」

 勝つことを大前提として考えたとき、どうやって勝つのか、ようやく具体的なイメージが浮かんできた。

 ―真に信ずれば、知恵が生まれる―

 それはシンプルなイメージだった。

「翔平が0点に抑えれば勝つんだ」

 そこに自分の心を落とし込んだ。きょうはピッチャー一本で勝負する。

 それも自分で決めている感覚はあまりなかった。そう決めざるを得ない状況に自分が持っていかれている、そういう感じだった。

 9月28日、西武プリンスドーム。

 あの日の大谷翔平のピッチングを、「神がかっていた」と表現する人がいた。

 だが、僕に言わせれば「これが大谷翔平」だ。

 大谷翔平が、大谷翔平らしいピッチングをすれば、こういうことになる。それを彼がはじめて見せてくれたのが、あの日だった。

 結果論だが、もしDHを解除し、打席に立たせていたら、最後まで投げきることはできなかったかもしれない。そして、もし途中でピッチャーを代えていたら、あの試合、負けていたと思う。次にどんなピッチャーが出てこようとも、交代した瞬間、相手は「しめた」と思うはずだ。それほどまでに、あの日の大谷翔平は素晴らしかった。

 あのピッチングの前で、数字はあまり意味を持たないが、ここにも記録として残しておく。

 29人のバッターと対戦し、球数125、被安打1、与四死球1、奪三振15、失点0。

 奪った得点は、レアードのホームランによる1点だけ。

 大谷翔平の完封勝利で、ファイターズは4年ぶりのパ・リーグ制覇を果たしたのだった。