八重洲ブックセンターの内田俊明さんと、三省堂書店の内田剛さん。二人は名字と、なんと生年月日1969年3月14日まで共通しており、同世代の作家・柳美里さんと親交が深い。書店員として、友人として、柳美里さんの新刊『人生にはやらなくていいことがある』の感想を語っていただいた。

柳美里という作家はマイルドになっている

内田俊明(以下、俊):僕が初めて柳美里さんにご挨拶したのは『命』(2000年)を出版された時でした。それからは僕が支店に行っていた数年間を除いて、書店回りの度にお会いしています。小説の感想をお伝えするだけではなくて、お互いに同い年で、男の子が一人いて、子どもの年齢も近かったので、子育てやプライベートの話しも気さくにしてくださいましたね。

内田剛(以下、剛):僕は文芸書のキャリアが浅いので、最初にお会いしたのは『月へのぼったケンタロウくん』(2007年)の時ですね。当時働いていたそごう千葉店でサイン会をやっていただいたんです。柳さんは年が同じで気になる作家だったのでずっと作品を読んでいましたけど、近寄りがたい人だという印象は持っていましたね。
 そのあとは時間があいて、『JR上野駅公園口』(2014年)以降は高い頻度でお会いしています。この時に作品をずっと読んでましたと伝えて、以前に僕が作った手書きPOPをお見せして、近しい距離でお話しができるようになりました。

:『JR上野駅公園口』は誰が読んでもジンと来る作品でしたね。河出書房で書いておられる作品からだんだん作風がマイルドになってきていると思います。

:読者に向けて、立ち位置、目線が変わってきているようには感じますね。

:『人生にはやらなくていいことがある』は柳さんのこれまでのキャリアから言うとすごく特殊ですよ。タイトルも内容も、こういうことをお書きになるんだ、と驚きました。

:柳さんはおおらかになったんじゃないかな。作家生活30周年という節目の年になって、過去といま、これからを伝えたいというものがあってタイミングもよかったと思います。柳美里を形作るエッセンスが凝縮されている、奇跡的な一冊だと思う。

:新書でコンパクトに読みやすく、ものすごいことを書いているのが一番の特殊さですね。『命』や『ファミリー・シークレット』(2010年)で膨大に紡いできたことをさらっと書かれている。
 ただ実は、本の感想が何も浮かんでこないんですよ。同い年で親しくしゃべっていただいていた人が、あらためてこんなにすごい人だったんだ、という畏怖の感情が大きくて。小説であれば紹介なり感想は言えるけれども、この本を語ることは柳美里という人について語ることであって、それはどうしても思いつかない、できないですね。

:僕はやや客観的に読めたのかな。柳さんのキャリアは自分にとっての物差しみたいなものなんです。同じ時代の中で自分はこういう仕事をしていて、彼女はこういう作品を世に出し続けるということが、自分の中での時間軸になっている。柳美里さんがこの作品を出した時に自分はこういうことをしていた、考えていた、とリンクして考えますね。
 自分にはできなかったことを、もがきながらやっていく柳さんを見て、こうであったかもしれない自分を投影していたような思いもあります。僕が実の母親を亡くした時には「何もしてあげられなかった」「何かできたんじゃないか」という葛藤や、後悔も引きずっています。その葛藤は柳さんに比べれば、ちっぽけなものかもしれない。もっと大きなものを乗り越えている柳さんを見て、僕にふっと返ってくるものがあるんです。彼女の世界、物語なんだけど、それが自分に跳ね返ってきて、自分の生き方を考える一つの手助けになる。

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