<第67回>

1月×日

【「ロッテワールド ホテルについてくるダンサー(前編)」】

 

木は小学三年生を実らせ、電車は小学三年生の嘘を乗せて走っていた。

いきなり文学めいた書き出しになってしまったが、今回もいつもの日記と同じく特に頭のいいことは書いていないので、テレフォンカードの角で歯ぐきでも刺激しながら最後まで読んでいただきたい。

先日、こんな場面を目撃した。

公園に赴き、僕はベンチに腰をおろしていた。ただでさえ薄暗い季節なのに、そのベンチは木陰の下にあり、よりいっそう寒々しい。

ぼんやりとしながら僕は自分の手のひらをじっと眺めていた。はたらけどはたらけど楽にならない暮らしを嘆く石川啄木のようだが、そうではなく、ただ単に暇だったのである。なにもすることがない時、「手のひらを眺める」という行為は、お金もかからず楽しめるお手軽なアクティビティだ。

手をじっと見つめながら「わあ、僕の運命線って、まつり縫いのようにぐちゃぐちゃだあ」と胸をざわざわさせるなどしながら、僕は3ペソみたいな時間を過ごしていた。その時、頭上の木から、不可解な電子音が聞こえてきた。すわ何事と視線を手のひらから樹冠へパーンさせると、そこには小学生男子たちが、鈴なりに実っていた。

つまり、木の上に8名ほどの小学生男子たちが登っており、無言でDSをいじっていたのである。

「ひっ」

あまりの予想外な光景に、僕は楳図かずおの漫画でしか聞かない驚きの声を上げた。小学生男子たちは「我関せず」といった具合で僕には一瞥もくれず、DSの世界に没頭している。ゲーム脳、丸出しである。

なぜ、こんな天気のよい日に、外でゲームをしているのだ?それも、なぜ木に登って?そもそもこれは、アウトドアなのか?インドアなのか?

様々な疑問が頭を駆け抜け、思わず樹上の彼らに声をかけた。

「ねえ」

「…はい?」

「キミたち、何年生?」

「…三年生です」

「なにやってるの?」

「え、ゲームですけど…」

「…いや、そうじゃなくて、どうして木の上でゲームを?」

「え…せっかくだから…」

小学三年生男子からの、コスモのごとき返答。「自分はいま、本当に人間と会話しているのか…?」とうろたえ、次の言葉が継げなかった。

露骨なまでに「早く帰ってくれねえかなあ、このプチ乞食…」という表情をしている彼らに負け、そそくさとその場を立ち去る僕。家に帰り、さっそく「小学生 木の上 ゲーム なぜ?」で検索してみた。

調べているうちに知ったのだが、公園で小学生たちがゲームを楽しんでいる光景は、最近ではわりとスタンダードなものであるらしい。友達の家にこもって遊ぶよりも地域の目があるところで遊んだ方が安全、という親たちの考えも要因としてあるらしい。

まあそれはいいのだが、問題はなぜ、彼らはわざわざ木に登ってまでゲームをしていたのか、だ。

考えているうちに、思い至った。

「小学三年生」とは、仲間と群れることを覚える季節である。男子であれ、女子であれ、ゆるやかにグループというものを作り、遊び始める。

ただ、男子という生き物は、群れたからといって、特になにをするわけでもない。

見たことないだろうか。コンビニ前で集まってただただぼんやりしている男たちを。工事現場の昼休みに車座になって無言で弁当を囲む男たちを。

自らを「一匹狼」などと自称しいい気になっているやつもいるが、なんのことはない、群れたところでなにをしていいのか分からないのだ、男は。

つまり男とは、ほとんど土鳩である。

で、そんな土鳩DNAが遺伝子にすでにきっちり刻まれている小学三年生男子たちも、とりあえず群れてはみるが、なにをしていいのか分からない。大人の男であれば、右脳だけの思いつきで酒を飲んだりするものだが、なにせ9歳である。すると目の前に木があった。せっかくだから、登ってみた。それだけの話なのである。

男の土鳩っぷりには、戦慄をおぼえる。

(次回に続く)

 

 

*本連載は、毎週水曜日に更新予定です。お楽しみに!【バックナンバー】

*本連載に関するご意見・ご要望は「kkbest.books■gmail.com」までお送りください(■を@に変えてください)