体の余分な力を抜いて、自分の体と向き合い、「気持ちのいい状態」をつくる野口体操。身体の機微が自分で分かる体をつくろう。

時間をかけて丁寧に自分の体と対話する

 独特な動きが特徴的な「野口体操」。これは腰痛予防のためだけの体操ではない。
「一日に何回やればこうなる、という効果・目的は言いません。野口体操をやった人が結果として効果があった、ならいいのです」と、野口体操の会主宰の羽鳥操さん。
 野口体操は東京芸術大学・体育学名誉教授の野口三千三氏によって生み出された。体の動きの実感を手がかりに、「生きる」とは何だろうということを、問いただす身体哲学だ。

 野口三千三氏は35歳頃、ひどい腰痛と胆石症を患い、整形外科医を訪ねたところ、手術をしても治る見込みはないので、体操教師をやめるよう言われたという。誤魔化しがきかない身体との付き合い方を模索する中で生み出されたのが「野口体操」である。
 その基本となる「上体のぶら下げ」は、ひどい腰痛持ちだった野口三千三氏が考え、ほかの全ての動きに通じるもの。体の余分な力が抜けている状態が基本。力を抜いて、ラクに呼吸をすると、自然に体がゆらゆら揺れる。
「人によって、〝いい体〟というのはそれぞれ違います。〝いい〟とはこうだとひとつにしてしまわない。その場に応じて自分の体と向かい合っていきましょう」(羽鳥さん)。

 現在、羽鳥さんが教えている野口体操の受講者の中には、腰痛に悩まされていた人も。
「肺炎にかかり、何度も咳をする影響で腰痛に悩まされていました。西・東洋医学などいろいろ試してもよくならず、野口体操の本を見つけて、教室に通い始めました。今では腰痛はなくなりましたね」(近藤早利さん)。


「痛い」という言葉の中に逃げ込まない

 野口体操には、独自の「痛み」との付き合い方がある。
「腰を痛めて少し動けるようになったとき、野口先生に〝これをやってみたら?〟と言われたのがやすらぎの動きです。痛みに対して、〝痛い〟という言葉の中に逃げ込まないように。ここから先の動きをしたら危ないとか、ここまでは大丈夫とか、自分の中で吟味して判断するのです」(羽鳥さん)。

 無理せず、やってみて気持ちのいい動きをやる。腰痛から逃げるでもなく、立ち向かうでもなく、「痛み」を素直に見つめ、自然な状態で静かに自分の中で探っていく。他人と比較せず、自分自身の体を痛めつけず、やさしさをもって行う「からだに貞(きく)・自然に貞(き)く」体操なのだ。