ドゥテルテは本当に「暴言大統領」なのか? 知られざるフィリピン苦悩の500年から、大国アメリカにモノ言う大統領誕生まで。激動の東アジア情勢を左右する国の、歴史と展望をダイナミックに描いた『アメリカに喧嘩を売る国』の著者・古谷経衡氏がドゥテルテとトランプを大胆比較。

ドゥテルテを「フィリピンのトランプ」と呼ぶのは失礼

「トランプ政権が発足しても共和党重鎮が調整し、バランスの取れた政策をする」「トランプが選挙中に言った数々の”暴言”は選挙中の単なるポージングだから安心」

 どうしてもトランプを擁護したい、もとい、トランプに願望を見出したい親米保守の人々は、トランプが大統領になる直前までさんざんこういった「願望」を開陳してきたが、トランプは大統領に就任するや、トンデモ大統領令を連発したことにより、もろくもこの「願望」は崩れ去っている。まずイスラーム圏7か国からの入国禁止は憲法違反の疑いが濃厚で、オーストラリアのターンブル首相との電話会談ではトランプの方から怒鳴って電話を切ったという。正直、嗚呼もうこの国は駄目だなと、思った。斜陽の帝国の最後の悪あがきというか、こうやって帝国は衰退していくんだな、と、まさにその歴史を眼前に見せつけられているような気分になる。

 マスメディアでは「〇〇のトランプ」という言い方が盛んだ。曰くフィリピンのトランプ、韓国のトランプ、フランスのトランプetc…。暴言を吐く政治家を簡単に「〇〇のトランプ」などと呼ぶのはもうやめにした方がよろしい。特にフィリピンのトランプとされるロドリゴ・ドゥテルテは、トランプとは似ても似つかない英邁な元首である。ドゥテルテは1986年から当時「犯罪都市」と呼ばれたフィリピン南部ミンダナオ島・ダバオ市の副市長を始め、翌年からは同市市長に就任し、数々の治安対策と麻薬犯罪撲滅に傾注した。ミンダナオは歴史的に「スペイン化=カトリック化」に抵抗したイスラーム教徒の末裔が住み着き、特に親米独裁を敷いたマルコス政権下の1980年代には反政府テロや外国人誘拐が頻発する最悪の状態であった。ドゥテルテが2016年、同国大統領選挙で2位のロハス候補を抑え、圧倒的に勝利したのはダバオ市政の実績に対する評価であって、彼の暴言が喝采を受けたからではない。
 そもそも、トランプは政治経験がゼロだし、実際の選挙でも一般投票総数ではヒラリー候補に200万票以上の差をつけられて破れている。それに比して、30年の政治家経験を持ち、一般投票総数で圧勝したドゥテルテをフィリピンのトランプと呼ぶのは些か失礼にすぎる形容ではないだろうか。

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