寒い冬は、腰や膝、首•肩などの「痛み」に悩む人にとって、一層つらい季節です。「病院に行っても悪いところが発見できなかった」「もう何年も痛みが続いている」という慢性痛患者に、薬や手術に頼らないセルフケアを説く「痛みの専門家」伊藤和憲先生。『慢性痛は自分で治せる!』を刊行した、伊藤先生に「あなたの痛みが治らない理由」を聞く。

◆腰痛やひざ痛などの「痛いッ!」の正体は何なのか?

 

 そもそも、痛みとは何なのでしょうか?
 実は、痛みとは体が発する警告信号なのです。体が危険にさらされると、体中に張り巡らされたセンサーがそれを感知し、神経を経由して、脊髄や脳に伝わることで、「痛み」を自覚します。そうやって人間の体は危険から身を守るようにできています。
「痛み」は人にとって重要な感覚ですが、警告信号の役割があるのは、最初の頃だけ(1カ月ほど)。それ以降はその役割が少なくなります。しかし、その痛みが長引いてしまうと、脳や脊髄に痛みが記憶されてしまい、なかなか治すことができな い「慢性痛」となってしまう可能性が高まります。
 また、痛みがあらわれる前には、「体がこる」「冷える」「違和感がある」といった様々な症状、いわゆる不調信号を前段階として送っているので、もし、その段階 で気付いて対処できたなら、痛みが出るという最悪な状態を引き起こすことはあり ません。しかし、それを通り越して、痛みが出てしまったということは、体はもう 限界だと悲鳴を上げている最終段階の信号だと思ってください。

◆「原因が見当たらないーー」その痛みは「慢性痛」です。

 痛みは体の警告信号の役割があるという話はしましたが、痛みを抱える患者さん のなかには、「痛みがずっと続く」「全身が痛い」と訴える人がいらっしゃいます。 例えば大きな事故にあって、体のいたるところに障害を受けてしまい、各部位の 警告信号が鳴っているのなら、痛みが続く、全身が痛いというのは理解できます。
 しかし、これに対して、原因が特定できないにもかかわらず、痛みがずっと続いているというのです。私の治療院にも、「レントゲンを撮っても、どこも悪いとこ ろはないと言われました。でも、本当に痛くて痛くて、たまらないのです」と、暗 い顔をして訪れる患者さんが来られます。あなたと同じように、「痛みの原因が特 定できずに、長期間にわたって痛みがずっと続く」症状に悩まされている人は多い のです。
 痛みは2種類に分類できます。一つは、ケガや火傷などによって起こる「急性痛」。すぐに治まる軽度から数カ月続く重度までありますが、ほとんどの場合は6カ月ほ どで治まることが大半です。
 これに対し、それ以上の期間痛みが続くことを「慢性痛」と分類します。急性痛が「痛みの原因がなくなれば消失する痛み」であるならば、慢性痛は「痛みの原因がなくなっても消えない痛み」ということです。
 通常、痛みはこういった順序で発生します。

筋肉や骨などから痛みの信号が送られる
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脊髄に情報が集められる
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脳 が痛みの度合いや痛む場所を特定する(このとき、脳は正しく特定することもあれば、間違って特定する場合もある)
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特定した場所が痛む

 ところが、痛みが急性のうちは痛みを感じるたびに神経が興奮し、脊髄で神経を 乗り換える作業をしますが、痛みがずっと続くと、毎回脊髄で神経を乗り換える作業が手間になるため、脊髄が勝手に脳に痛みの信号を送ってしまうのです。すると、 脳もこの情報を痛みだと特定してしまい、痛みの原因がなくても、痛みがずっと続く状態に。こうやって痛みが慢性化することで、「慢性痛」となってしまうのです。 そう考えると、「急性痛」と「慢性痛」は、同じ痛みであったとしても、その成り立ちがまったく異なることがわかるはずです。
 一旦慢性痛になってしまうと、その後の治療は長期間かかる場合がほとんどなので、痛みが慢性化する前に、適切な治療を行なって早期に原因を取り除くことが何より大切です。
『慢性痛は自分で治せる!』をもとに構成)