錫(すず)で作られた器に入れるとお酒が美味しくなると言われ、日本では古くから神仏にお供えする酒器として用いられてきました。その歴史は紀元前にさかのぼるとも言われています。錫が持つイオン効果は不純物を取り除き、浄化作用があります。また、サビにも強く腐食することも少ない。なによりその熱伝導率の高さが、お酒との相性を高めています。短時間で温めることができ、お酒の風味を逃しません。そして、冷たいビールも長時間冷たいまま、飲むことができるのです。また、湿気にも強いため茶筒や茶箱などにも昔から利用されています。
 

 現在、日本の錫器の多くが大阪で作られており、大阪浪華錫器(おおさかなにわすずき)として、経済産業大臣指定伝統工芸品となっています。

 

「錫は遣隋使、遣唐使の時代に中国から日本へ入ってきました。当、錫を使っていたのは、貴族や公家などの上流社会の人達だったので、錫を使ったモノづくりは、京都を中心に行われていました。しかし、江戸時代になると武家社会や一般庶民も錫を使うようになりました。逆に公卿たちも錫職人を抱えていられない台所事情もあって、職人たちは経済物流の中心であった大阪へ移ったのです。我々が今、錫器を作っているやり方というのは基本的には昔から変わっていません。錫を溶かして、ひとつずつ鋳型で鋳造して、今度はロクロでそれを削ります」
 江戸時代終わりに創業された大阪錫器代表取締役の今井達昌さん。工房には若い職人の姿もあった。
「若い人たちには『基本をきっちりと覚えなさい』と言っています。私たちは仕事でモノを作っているので、いかに早く仕上げかということも考えなくてはいけません。そうすると“やりやすい方向、方法”になってしまうこともあります。たとえわずかであってもやり方が変わるだけで、作れないモノがあるんです、10種類のうち8種類が作れても、あとの2種類が作れない。そういう時にこそ、基本が活きる。昔からの基本となるやり方がわかっていれば、遠回りしてもゴールには辿り着ける。作れなかったモノを作ることができるんです。すべての技術を持っている人はすべてのモノを作ることができる。だから基本を覚えることが重要なんです。
 伝統工芸は止まった時点で終わってしまう。その時代、今のニーズを見出すことができなければ、モノが売れない。私たちは趣味でやっているわけでなく、これで生活をしています。だから、時代に求められるモノ、必要とされるモノを作らなければ、この仕事で生活ができない。すなわち次の時代ではこれを作っている人がいなくなる。だからこそ、伝統工芸は止まったら終わり。わずかでも止まってしまえば、『昔、こんなのがあったんだよ』と、なくなってしまうんです」

 大阪錫器では錫本来の風合いを生かしたナチュラルなものから、様々な細工を施した商品まで約数千種類の商品を製作している。なかには、漆を施した商品もある。

 

「錫漆(すずうるし)シリーズは、全国各地の漆塗りをしている土地とコラボレーションしたもので、紀州や会津、津軽などがあります」と、Kさんを大阪錫器の工場内を案内してくれた今井保詩慧さん。
「先ほど見てもらった10キロほどのインゴットを溶かして、鋳型に流し込んで鋳造します。230度くらいあるので、作業部屋はサウナのような暑さになります。温度が下がってきたところで器から取り出します。錫はとても柔らかいので、取扱いには注意が必要です」