暖かくなりどこかで出かけたいと思っている人に、ヴィジュアル新書『企画展がなくても楽しめる美術館』より、いつ行っても楽しめて、とくに個性的な美術館を厳選してご紹介します。

ミレーの名作がいつでも堪能できる

 山梨県立美術館は1987年の開館にあたって、ジャン= フランソワ・ミレーの《種をまく人》を購入し、それを“目玉”にすることによって世にアピールする作戦を打ち出しました。作戦は見事に奏功し、オープン二年で100万人という来館者数を達成しました。以来、山梨県立美術館は「ミレーの美術館」として親しまれるとともに、県立美術館のお手本とされてきました。

 《種をまく人》は、《晩鐘》や《落ち穂拾い》などと並んでミレーの代表作の一つといわれ、岩波書店のマークにも使われています。

 一人の農夫が畑に作物の種をまいているところですが、その姿は雄渾(ゆうこん)で、農作業をしているというよりは闘いに臨もうとしている戦士のようです。ミレーが「種をまく」という行為をどう捉えていたかが窺われます。

 ただ、あまりにも勇ましすぎて「ミレーは社会の転覆を企てている」などと勘繰られる“種”にもなってしまったというエピソードも残っています。ミレーはほぼ同じ絵柄、同じ大きさの《種をまく人》を二枚描いており、もう一枚はボストン美術館の所蔵になっています。

 《種をまく人》以外にも《夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い》や《落ち穂拾い、夏》など約70点(油彩画は一一点)のミレーの作品が所蔵されています。私自身は《ポーリーヌ・V・オノの肖像》がお気に入りです。まだ少女の面影を残している華奢な女性がこちらを見つめています。手はモナ・リザのように組まれています。ポーリーヌはミレーの最初の妻となった女性ですが、結婚してわずか3年後に22歳の若さで亡くなりました。この絵は結婚してすぐに描かれたもので、ポーリーヌの喜びと不安とが微妙に入り交じった表情が印象的です。

 山梨県立美術館にはミレー以外にも、コローやトロワイヨンらバルビゾン派の優れたコレクションがボリューム豊かにあります。2009年にはミレー館をオープンさせ、「ミレーの美術館」としてますます磨きをかけています。訪れて損のない美術館だと請け負います。

 
山梨県立美術館
山梨県甲府市貢川1-4-27
☎055-228-3322
開館時間/9:00〜17:00(入館は閉館30分前まで)
閉館日/月曜日(祝日は開館、翌平日休館)、年末年始、その他臨時開館、休館あり
料金/コレクション展 一般510円、大学生210円、高校生以下と65歳以上無料 特別展 一般1000円、大学生500円、高校生以下と県内の65歳以上無料
アクセス/電車:JR甲府駅(南口)よりバス約15分 車:甲府昭和ICより約10分

洗練された古民家風の建物と大理石の床に感動

 浜松市秋野不矩美術館は建築家の藤森照信氏が設計した個性あふれる美術館です。
 藤森氏は人工物と自然の「幸せな関係」を一貫して目指しています。当館においても立地する天竜の自然と調和した美術館が追求されました。材料は天然素材が多く使われています。外壁は天竜産の杉板と、ワラを混入した茶色のモルタルからなり、モルタルはあえて粗く塗られています。屋根は鉄平石の瓦で葺かれています。玄関ホールの梁や柱には木が粗く使われ、ざっくりとした木組みの柱が古民家のような雰囲気を生み出しています。

 ここでは館内へ入るのに靴を脱ぎます。主展示室の床は大理石が敷かれており、床暖房が組み込まれているため、床に座って見ることができます。まるで家にいるかのようなリラックスした気持ちで作品と向き合うことができます。大理石の床は光をちょうどいい具合に反射し、館内の照度分布がほとんど一定になっています。そのため作品がごく自然に美しく見えます。

 大作《オリッサの寺院》は、この展示室に合うようにと制作された作品です。題材となった寺はインドにあります。秋野不矩は50歳を過ぎてから単身インドへ渡り、インドの大学で日本画を教えるために1年間滞在しました。そのときの経験が作品に生きています。文明的洗練とはまた違った、人や動物の原初の生命を感じさせる不矩の絵、美術館と見事に響き合っています。

 
浜松市秋野不矩美術館
静岡県浜松市天竜区二俣町二俣130番地
☎053-922-0315
開館時間/9:30〜17:00
休館日/月曜日(祝日は開館、翌平日休館)、展示替え期間、年末年始(展覧会により休館日が異なる場合があるため、HP等で要確認)
料金/所蔵品展 一般300円、高校生150円、中学生以下無料、70歳以上無料
アクセス/列車:遠州鉄道西鹿島駅よりタクシー約7分、天竜浜名湖鉄道天竜二俣駅より徒歩約15分 車:浜松浜北ICより約10分
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