入団テストに合格し、晴れてプロ野球選手になる夢を叶えた野村元監督。しかし、「母はプロ入りに猛反対だった」そうです。

人は夢を持つことが大切
夢を追い続ける姿は人の心をも動かす

 貧乏生活を送っていた中学時代から夢見ていたプロ野球選手になれるということは、心の底から嬉しかったですね。プロ野球の世界でたゆまぬ努力を重ねて一流選手になれば、大金を掴むことができる。女手ひとつで育ててくれた病弱な母、私を高校へ行かせるために大学進学を諦めて就職した兄に恩返しするためのスタートラインに、私は立つことができました。

写真/高橋亘

 ところが、母はプロ入りに猛反対だったんですよ。「お前みたいな田舎者が、そんな華やかで不安定な世界に行っても成功するわけがない。ちゃんと就職して、堅実に暮らしなさい」と、まったく認めてくれませんでした。私としては、どんなことでもトライしてみないとわからない。「なんとかなるやろ」という気持ちだったんですが、いくら言っても首を縦に振ってくれませんでした。

 そんなある日、野球部長である恩師・清水義一先生が我が家にやって来たんです。清水先生は、私が入団テストを受けられるように南海ホークスに手紙を書いてくれた方ですし、母が入団に反対していることはすでに伝えていました。
 そのとき、突然の訪問に驚く母に向かって、清水先生がこう言ってくれたんです。
「お母さん、野村君を私に任せてくれませんか。ホークスの入団テストにも合格しましたし、せっかくのチャンスなんですから、目をつぶって送り出してやりましょうよ。もし3年間やっても芽が出ず、クビになって故郷に帰ってくるようだったら、私が責任を持って就職の世話をします」

 その説得によって、母も「そこまで言ってくれるんでしたら、先生にすべてお任せします」と納得してくれたんです。そこが本当に人生の分かれ道でしたよ。その結果、我が町で初めてのプロ野球選手誕生ということで、町の人たちから盛大に送り出してもらえたうえ、地元の新聞にも私の入団に関する記事が掲載されましたからね。
 その道を作ってくれた清水先生には感謝の気持ちしかありません。そして、先生がなぜそこまで私のために動いてくれたかといえば、プロ野球選手になって大金を稼ぎ、母に楽をさせたいという気持ちを理解してくれていたからなんですよね。

 どんな夢でも構わないですが、人は夢を持つことが大切なんです。夢を追い、日々懸命に練習に取り組んでいた私の姿を見た先生にも伝わったように、夢を持つことは人の心をも動かす。そうしたことを知ることができたのは、高校時代の貴重な経験ですね。
 

明日の第七回の質問は、「Q7.念願のプロ野球選手になった1年目はどうでしたか?」です。