▲名字のルーツの8割は地名、1割は藤原氏 イラスト/さとうただし

「山」「川」「田」「村」……名字は人とともに動く地名 

 約30万種とも言われる日本人の名字は、おおむね8割が地名に由来するという。名字とは少し意味合いが違うが、古代豪族が用いた血筋を表す「氏(うじ)」も7割以上が地名由来。たとえば、蘇我氏は飛鳥の曾我川流域が本拠地。葛城氏は葛城山の東麓、春日氏は春日山の南方から起こっている。

 では、なぜ名字には地名由来が多いのか。日本史学者の武光誠さんはこう説明する。
 「人間が言葉を用いはじめたとき、まず地名が生まれました。それから、一族や個人を特定する際に、『□□に住んでいる○○さん』というふうに呼ぶようになったのです。最古の地名は、山、川などの自然地名。やがて稲作が始まると、人家が集まるところを『むら』『さと』と呼んだことから中村、村山、村上、大里、中里などの地名ができ、稲作が発達した場所には、『田』のつく地名が多く生まれました」。

 713年(和銅6)に国名・郡名・郷名から山川湖沼まで漢字2文字で表記せよという『好字二字令』が発令されると日本の地名が整えられた。現在でも、奈良時代に名づけられた地名の半分近くが残っている。
 中世に入って、支配する領地の地名を自分の「名字」としたのが武士たちだった。彼らは領土を拡大し、あるいは戦いに敗れて逃げ延び、分裂して移動し、新しい土地に名字を広げた。
 「その意味では、名字は人とともに動く地名。田のつく名字であれば、農村部に住んでいたでしょう。ゆえに、名字を手がかりに自分のルーツを知ることができる。特に珍しい名字は、珍しい地名に由来していることも多い」。

 名字には地名以外にも、方位・方角、職業、信仰、藤原氏などに由来するものがある。これらの中でも特に多いのが、佐藤、斎藤、加藤などの藤原氏由来の名字で、日本の人口の約1割を占めるという。

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