日本で一番多い名字は「佐藤」。ベスト10には「伊藤」「加藤」も入る。 人口の約1割を占める「藤」がつく名字の人は、藤原氏ゆかりの者なのか。 『藤原氏の正体』の著書もある武光誠さんに伺った。
▲佐藤、近藤の元祖!平安時代のヒーロー藤原秀郷(国立国会図書館蔵) 

藤原氏の子孫は藤原姓を名乗っていない

 大化の改新(645年)で功績を残した中臣鎌足が、天智天皇から「藤原」の氏を授かって誕生した藤原氏は、天皇とともに歴史を築いてきた日本最高位の貴族である。その地位が不動のものとなったのは、平安時代。藤原北家の当主が、朝廷の最高位である「摂政」「関白」になり、天皇に代わって摂関政治を行うようになってからだ。
 「藤原氏は、藤原北家の嫡流を摂政・関白になれる“摂家”と定め、官職を独占していったのです。中央で官職に就けない藤原氏の多くは、地方の国司などとして活躍しました。彼らは出自をあきらかにするために、赴任した土地の名や職業名と『藤』を組み合わせて『◯藤』や『藤◯」を名乗ったのだと考えられます」と日本史学者の武光誠さん。
 「佐藤」の祖とされるのが、下野国(栃木県)の佐野を本拠地にした藤原北家の秀郷。「地名+藤」のタイプである。その後裔からは、「近藤」「首藤」の名字も出ている。いずれも東日本、とくに東北に多い。また、「左衛門尉」に任ぜられたことから佐藤を名乗った「職業+藤」タイプもある。「斎藤」は藤原北家の利仁が、伊勢神宮の斎宮頭となった息子の叙用に名づけたのが始まり。「工藤」「伊藤」は藤原南家の為憲が祖だという。

 「地方で活躍した藤原氏の武士たちは、家臣や領地を耕す農民に『藤』の一文字をつけた自家の名字を与えたケースもあるため、『藤』がつく名字がすべて藤原氏の血筋とは言えません。しかし、『藤』がつく名字は、藤の花を愛でる風流な気持ちから作られたものではなく、やはり、藤原氏への関わりや憧れから作られたものだと思います。先祖が何らかの形で藤原氏と関係していた可能性は高いでしょう」。
 ただし、現在『藤原』という名字であっても、藤原氏の子孫ということにはならない。藤原はあくまで「氏」。主な子孫たちは、すでに平安・鎌倉時代から別の名字を名乗っているのだ。

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