“産みの苦しみ”を味わった
からこその「強さ」で、
優勝回数を重ねそうな予感

 17年ぶりとなる4横綱の揃い踏みとなった3月場所初日、新横綱稀勢の里の土俵入りで沸き起こった拍手と声援は他の先輩横綱のそれをはるかに圧倒していた。前売りチケットは発売開始日にわずか2時間半で全15日分が完売。1月場所から続く“稀勢の里フィーバー”の猛威は落ち着きを見せるどころか、ますます過熱している。


 1月25日の横綱昇進伝達式で報道陣から次の目標を尋ねられた新横綱は「来場所の優勝です」とキッパリ言い切った。過去71人の横綱のうち、横綱デビュー場所で優勝を果たしたのは双葉山、大鵬、貴乃花ら、わずか7人しかいない。稀勢の里の入門時の師匠だった先代鳴戸親方の隆の里もそのうちの1人で、15戦全勝優勝という“離れ業”をやってのけている。


 正式に横綱に推挙されると、その後は公式行事や挨拶回りなどで多忙を極め、十分な稽古時間すら確保できず、体調管理もままならないことから、新横綱優勝はことさら難しいとされている。直近ではモンゴル出身横綱が4代続いたが、彼らの新横綱場所は朝青龍10勝、白鵬11勝、日馬富士と鶴竜はともに9勝と、いずれも優勝争いに絡むことなく平凡な成績に終わっている。


 稀勢の里は殺到したテレビ出演やイベントのオファーをほとんど断り、稽古に専念して先場所の好調ぶりそのままに大阪入りした。場所前の稽古で左まぶたの上を11針縫う裂傷を負ったが「大丈夫です」と全く意に介さなかった。


 注目の初日は豪風を危なげなく捌き、白星発進。「土俵に上がれば変わらない。しっかりやるだけ」と新横綱初日という特有な状況にも硬さは微塵も見られなかった。翌2日目は正代に攻め込まれる場面もあったが、この日も落ち着いた取り口で連勝。「まあ、悪くない。(先場所までと比べて)そんなに変わらないんじゃないの」と取組後は表情も変えずに語った。


 4横綱の立ち上がりは第一人者の白鵬が初日に躓き、日馬富士は3日目で既に2敗。鶴竜と稀勢の里はともに3連勝スタートだが、鶴竜は盤石さに欠ける内容だ。横綱になっても気負うことなく、これまでと変わらず平常心を貫く稀勢の里は、先輩横綱と同じ轍を踏むことはないだろう。貴乃花以来22年ぶり、さらに師弟2代にわたる大偉業に向け、新横綱に死角はない。