「監督に向いているのはキャッチャーと内野手の出身者だ」そう持論を展開するのは、新刊『壁』を発売した野村克也氏。現在監督候補として期待するのが内野手出身の教え子、宮本慎也氏だ。努力を積み重ねることができ、リーダーシップもある、と賛辞を惜しまない。

キャッチャーと内野手の出身者こそ、監督に向いている

 高校卒業後60年以上もの間、プロ野球の世界に身を置いてきた私の持論としては、監督に向いているのはキャッチャーと内野手の出身者ではないかと考えています。

 自分がキャッチャー出身者だからひいき目で見ているわけではありませんが、言うまでもなくキャッチャーは守備における監督の分身です。

 グラウンド上で常に試合の状況を判断し、他の8人の選手たちに対する指示を瞬時に決断しなければなりません。

 内野手もまた、緻密なサインプレーや連係プレーを要求されるので、プレー中は頭を働かせておく必要があります。

 現役時代からこうした考える習慣を身につけ、実績を積み重ねているからこそ、いざ監督に就任した際、スムーズに対応できるんですよ。

 事実、過去30年間で、セ・パ両リーグの優勝監督(外国人を除く)を出身ポジション別の延べ数で分類してみると、内野手23回、キャッチャー14回、ピッチャー11回、外野手9回の順になっています。もともとキャッチャー出身の選手自体が少ないことを考慮すれば、さしずめ私の持論も大きくは外れていないのではないでしょうか。

 
写真/高橋亘

 ただ、近年はキャッチャー出身の監督の活躍があまり目立たないのは残念な限りですし、今のところ、将来有望なキャッチャー出身者も見当たりません。

 そんな中、今後監督候補として期待したい人材を一人上げるなら宮本慎也ですね。

 彼は、私がヤクルトスワローズの監督を務めていたときに入団してきた内野手ですが、当初は守備が一級品だったのに対して、バッティングは見るべきものがまったくありませんでした。私自身、「守り専門」という意味で、「ヤクルトの自衛隊」と呼んでいたくらいですから(笑)。

 ところが、彼は若いときから、誰よりも早く神宮の室内練習場に来てバットを振り、試合終了後も居残り練習を続けていました。それが実を結び、40歳を過ぎてから2000本安打を達成したうえ、史上3人目となる通算400犠打を記録するまで成長したんですよ。

「努力に勝る天才はなし」という言葉がありますが、彼はまさにそれを体現した典型的な選手です。自分の実力や才能を自覚したうえで努力を積み重ねることの大切さを知っていますし、数多くの苦労も味わっています。

 さらにリーダーシップも備え、チーム内で嫌われ役になることも厭わない。やはり監督というものは、誰がなっても選手全員に好かれるわけではありません。そのとき、選手にへつらうのではなく、自信を持って、やるべきことをやることが重要なんです。

 そう考えると、彼は適任なんです。宮本監督の誕生をぜひ見てみたいものですね。

明日の第二十八回の質問は「Q.28 監督として数多くの選手を育てましたが、選手の育成や再生のうえで最も重要なことは?」です。