森友問題を発端に学園から一目散に逃げ出したのがまぎれもなく安倍首相夫妻
「保守思想」「保守主義」とは何か? 
 安倍晋三首相が教育方針に深く共感し、昭恵夫人が涙を流しながら講演をし、稲田朋美防衛大臣も10年以上前から面識があった籠池泰典氏が理事長を務める森友学園。しかし、この学園を発端に「国有地激安払い下げ疑獄」が発生すると、思想に深く共鳴していた政治家や物書き連中は一目散に逃げ出し、責任の擦り付け合いをはじめた。いまやこの学園は「保守」を偽装した「愛国カルト」「ネトウヨ」「パッチワーク右翼」などと揶揄される始末。
 南スーダンの「戦闘」を「衝突」と言い換えるなど、「言葉の信頼性」を破壊し続けてきた安倍政権が学ばなければならないのは、「保守思想とは何か」である。われわれは「言葉の信頼性」を取り戻さなければならない。作家・適菜収氏が自著『安倍でもわかる保守思想入門』でニーチェの思想をもとに「保守思想」「保守主義」とは何かを語った。

ニーチェと保守主義

フリードリヒ・ニーチェ/ドイツの古典文献学者、哲学者。ニーチェは「理性を疑え」と言った。

 ニーチェ(一八四四~一九〇〇年)は保守主義者です。
 こう言うと、「なに言ってんだ」という反応が返ってくると思います。
 その理由は簡単です。
 世の中には自分の頭で考えず、原典を読まない人が多いからです。それで、巷にあふれているデタラメなニーチェ解釈を鵜呑みにしてしまう。
 すなわち、ニーチェは「徹底的に権威を否定した価値の破壊者」であり、「道徳を呪う無神論者」であり、「ニヒリスト、相対主義者、アナーキスト」であると。
 ここでは、こうした説明が大間違いであることを説明しておきます。
 ニーチェの哲学は、価値と道徳を擁護し、無神論の欺瞞を暴き立て、ニヒリズムの超克を示すものに他ならない。
 ニーチェはキリスト教の道徳を否定したのであり、逆に道徳の復権を説いたのだ。
 ニーチェはキリスト教の価値を否定したのであり、逆に価値の復権を説いたのだ。
 ニーチェはキリスト教の構造が、神の姿を歪め、人類の価値を汚したことを指摘したのである。現実の背後に「真理」を設定するプラトン主義が、キリスト教を経由して、近代理念にたどり着いたというのがニーチェの見取り図だ。

❝結局はプラトンに対する私の不信は深い。すなわち、私は彼を、古代ギリシア人の根本本能からきわめて逸脱したもの、きわめて道徳化されたもの、きわめて先在キリスト教的なものとみとめるので——彼はすでに至高の概念としての「善」という概念をもっている――私はプラトンという全現象について、「高等詐欺」という、ないしは、聞こえがよいと言うなら、理想主義という手厳しい言葉を――なんらかの他の言葉よりもむしろ使いたい。❞ (『偶像の黄昏』)

 ニーチェが批判したのは「神」ではなくて、「神として崇められていたもの」である。キリスト教は「神」という概念を自然や大地、民族、固有の歴史から切断し、都合よく捻じ曲げ、「神の下の平等」という呪文により、人類を個に分断し、弱体化させ、家畜化した。これが近代理念に化けたのである。

❝この概念のうちには平等権のあらゆる理論の原型があたえられている。人類はこの平等の原理をまず宗教的語調で口ごもることを教えられたが、のちには人類
のために道徳がこの原理からでっちあげられた。❞ (『権力への意志』)

 ニーチェは、近代がニヒリズムにたどり着く構造を示し、前近代に戻ることができないことを確認した上で、人間の可能性について考えた。
 保守主義は啓蒙思想を警戒する姿勢のことだ。こうした意味において、ニーチェはもっとも根源的な保守思想家と言ってよい。

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