良い意味での“ロー・ファイ”さ

 この作品を見てまず感じるのは、作画や全体の雰囲気が独特だということでしょう。
 緻密で美麗な作画やダイナミックで流麗なキャラクターの動きなど、昨今のアニメ作品のほとんどはパッと見て綺麗で格好良い、きめ細やかで丁寧な絵作りをしています。 例えば『君の名は。』の緻密な背景や繊細な色使いもそうですし、京都アニメーション制作のTVアニメ『響け!ユーフォニアム』は背景、楽器の描写、キャラクターの細かな仕草など劇場版かと思うほどのクオリティです。 それに対して『けものフレンズ』は、全体的に一昔前のゲームのCGのような簡素な作画でした。キャラクターの動きや表情もさほどパターンが多いわけではありません。でも、ずっと見ているとその素朴さに和みを感じてくるような、絶妙なバランスの作画だったと言えるでしょう。
 また、ハイテンポで次々にカットが切り替わっていったり、早口でセリフをまくし立てたりするアニメが多い中、『けものフレンズ』はカットの切り替えやキャラクターの動き、セリフ回しがゆっくりしていて、全体的にのんびりしています。5分くらいの枠でやる内容を30分の枠を使ってのんびりやっているような印象も感じました。 こういった独特の作画やテンポによって『けものフレンズ』にしか醸し出せないワン・アンド・オンリーな「良さ」が生み出されたと言えるでしょう。
 映画や音楽などでも、多額の予算と大量の人員をかけて製作したハイ・ファイで超絶的なクオリティの作品と、低予算で少人数で作ったロー・ファイで簡素な作品を比べてみても、必ずしもどちらが良いとは言い切れない場合が多いものです。 ハリウッドの大作映画にも、無名監督が作った自主制作映画にも、それぞれの良さがあります。予算や人員に制限があっても、工夫次第で良いものが作れるというのが、芸術表現の世界なのでしょう。 ただ、昨今のアニメ作品はどちらかと言うとハイ・ファイさで勝負しようとするものが多いように感じられます。 それに対して、『けものフレンズ』は良い意味でロー・ファイなものを提示できたのではないでしょうか。
 つまり、他の作品とは違う規準で勝負する土俵を新たに生み出せたのです。従来とは違ってロー・ファイなものでも評価を得られたのですから、アニメ界に革命的なパラダイムシフトが生じたということになるのかもしれません。
  ロー・ファイなものは得てして稚拙で粗雑なものともなってしまいがちなのです。しかし、『けものフレンズ』に関しては制作陣の絶妙なセンスと工夫、努力で良い意味でのロー・ファイさ、つまりこの作品にしかない独特な雰囲気や味わいのようなものを生み出せたのだと思います。