「生きづらさ」がしきりに喧伝される世の中で、どうすれば「生きやすさ」を手に入れることができるのだろうか――『すてべてがFになる』などのベストセラーで知られる作家・森博嗣が書いた新刊『道なき未知』が話題を呼んでいる。「発想」ひとつでわれわれの日常は変わっていく。本書に収録した「言葉より数を見る」を紹介する。

【道なき未知~言葉より数を見る】
■褒められても喜ばない

 周囲の人の声に流されない、という姿勢は非常に重要である。無視できないほど大量に声は押し寄せるけれど、その大部分を遮断しないと、自分の考えが前面に出てこないし、流されていると、そのうちに「考えない人間」になってしまうだろう。
 ただ、遮断するといっても、周囲をまったく観察しないという意味ではない。生きていくうえで、自分の周辺、そして未来がどんな環境なのか、自分が進む道はどのようなロケーションにあるのか、条件や障害を多方面から観測する必要がある。
 まず、個々の人が何を言っているかではなく、何人がものを言っているかの方がはるかに大事であり、その人数をきちんと把握すること。
 たとえば、褒められたからといって喜んではいけない。また逆に、貶(けな)されても落ち込む必要は全然ない。「いいね」だけを数えるのではなく、「駄目だね」も数えよう(そんなサインはない?)。そして、褒められた数と貶された数を単純に足し合わせて、合計の数字だけを把握・分析する。この数の変化こそが、自分への「影響」だと捉える。
 僕は、実際にこのとおりにしている。発表した作品に対しては、みんなが評価点をつけるし、いろいろな感想も届くけれど、最も確かなデータは、何人が読んだか、何部売れたか、という数字なのである。
 高いものは売れにくく、安いものなら売れる、というならば、売れた数ではなく、売上げを見る。それが、最重要のデータだ。また、製作費や宣伝費がかかったのなら、それらを差し引いた利益が、その作品の評価値として一番信頼できる。
 僕は、純粋にそう考えているので、良い評価も悪い評価も同じと見る。何人が反応したか、あるいは、何人が意見をアップしたか、の方がずっと大切な「結果」といえるし、つまりは、本を出版する目的に一番近い「成果」だといえる。
 たとえば、学校のクラスメイトが、一日に何人話しかけてきたか、で見る。良いことも悪いことも言ってくるだろうが、同列に扱う。幼い子供は、親が褒めても叱っても、何回言葉をかけられたか、で親子の関係を本能的に測っているだろう。親が子供に関心を持っているかを示す(目に見える)一番確かな指標がどう変化するかに注目している。

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