■つまり、質より量である

 世の中でよく聞かれる台詞は、「量より質」だろう。この言葉が強調されるのは、現実には、その逆だからである。
 売上げが思わしくない、人気が思ったほど出ない、といった場合に、そうした量ではなく、「個々の意見を大切に拾いたい」みたいな言い訳をするのだ。
 「お客様の声」などといって取り上げる場合にも、多くは「良い声」だけを拾っている。もしも個々の声に注目するならば、「悪い声」に耳を傾ける方がまだ建設的だ。しかし、個々の声である以上、一つの声を聞いて対処しても、量は一つしか増えない。もし、良い方の声であれば、量は一つも増えない(何故なら、良い声は、既に買ってもらった人から発せられるからだ)。
 僕が作家になって一番に感じたことは、出版社も書店の人も、みんな本が大好きな人ばかりで、本を読まない人たちに向けた商品を開発していない、ということだった。
 シェアを伸ばそうと考えるならば、現在見向きもしない人たちにアピールする必要がある。日本人のうち小説を読む人は、百人に一人もいない。もの凄いマイナな趣味なのである。その小さな世界で閉じた戦略しか持っていない、と僕には感じられた。この二十年間で、出版界がどれだけ衰退したかを見れば、僕が持った印象が間違っていなかったことを少しは納得してもらえるだろう。
 自分たちが良いと信じるものが良い商品ではない。相手が求めるものが良い商品になる。そして、良い商品とは、量が売れるものだ。質を上げれば売れるという幻想を、まず捨てる必要がある。何故なら、質は、人によってまちまちだからだ。
 作家が仕事ならば、ファンの声ではなく、読者にならない人が、どれくらいいて、何故手に取らないのかを観察しなければならないはずだ。

■春は工事開始のシーズン

 暖かくなり、地面が凍っていない日を迎えることが多くなった。こうなると、土が掘れるし、あれもこれもやりたくなってくる。冬の間も、庭園鉄道はほぼ毎日運行していたが、不具合があっても寒くて直せない。そんな箇所を、これから修繕していくことになる。スコップを持って庭に出ることが楽しみだ。
 手始めに、モルタルを練って、レンガを積もうと考えている。また秋まで、日々少しずつ頑張ろう。

 

庭園鉄道は毎日運行している。樹の葉が茂るのは二カ月さきなので、暖かい日差しがまだしばらくは地面に届く。