黒人の少女にふりかかる過酷な運命を描いただけじゃない、女性の真の美しさとは何かを問う。同じ作家の作品を2冊併せ読んで考察する、「スゴ本」案内。第12回は、アメリカの女流作家トニ・モリスン。

辛く苦しい、しかし力強い

「青い眼になりたい」。1993年にノーベル文学賞を受賞した、アメリカの女流作家トニ・モリスンのデビュー作で、黒人少女ピコーラは、白人になりたくてこう言った。

 1970年刊行の『青い眼がほしい』の中で、ピコーラの一家は、酒浸りの父親が自分の家に火を放って刑務所に入ったために崩壊してしまう。そのため、彼女は同じ黒人のクローディアとフリーダという姉妹の家に引き取られる。ひょんなことから友達となった少女たちの可憐な姿が、この小説の前半では生き生きと美しく描かれている。

 しかし、トニ・モリスンの小説世界を貫いているのは、容赦のない人種差別の世界である。キャンディーを買いに白人店主の店に入ったピコーラは、黒人少女を人間として見ようともしない男の前で、身がすくんでしまう。「彼女は金を差し出す。彼は、彼女の手に触れたくないので、ためらう」「とうとう彼は手を伸ばして、彼女の手から1セント硬貨を3枚受け取る。彼の爪が、彼女のしめった掌に軽く触れる」。差別を描いているのに、まるで映画のスローモーションを見ているように、モリスンの描写は美しい。

 白人が黒人を人種差別するだけではない。黒人同士、つまりカラードからニガーへの差別もある。「黒んぼやーい 黒んぼやーい」とピコーラを追い立てるのは、黒人少年たちなのである。さらには黒人男が黒人女を差別する日常も、モリスンは見逃さない。

 最新作『神よ、あの子を守りたまえ』は、化粧品会社で社会的成功を得た黒人女性ブライドの物語である。主人公は「非常に強力な免疫を作り上げたので、「ニガー・ガール」にならないだけで勝つことができた」「心底から黒い美人になった」と自負する女性。

 しかし、彼女は子供だったとき、児童虐待されたと嘘の証言をしたせいで、無実の女を刑務所に入れてしまったことがトラウマになっていた。そのことで自分を許せない彼女は、恋人のブッカーに去られたことで精神の危機に陥り、仕事を捨てて、彼を探す旅に出る。
 幼い頃に人種差別を受けていたブライドは「愛することがいかに難しいか」悩んでいたのだ。ブッカーはそんな彼女に「科学的には、人種なんてものは存在しないんだよ」と諭す。

 青い眼に憧れたピコーラは、今や恋人に癒されるブライドに変貌している。差別とトラウマ、そこからの回復に射程をすえて紡がれたモリスンの新作は、黒人文学の枠を超えた作品世界に昇華していて感動的だ。

トニ・モリスン、大社淑子(翻訳)
『青い眼がほしい』
(ハヤカワepi文庫)
トニ・モリスン、大社淑子(翻訳)
『神よ、あの子を守りたまえ』
(早川書房)