毎年、食品や生活必需品など、様々なジャンルの新商品が星の数ほど生まれる。だが、その中で数十年にわたって売れ続ける商品は、一握りしかない。それら「ロングセラー商品」は、私たちの生活にとって欠かせない定番商品となっている。
『一個人』5月号では、そんな日本生まれの定番商品、「ロングセラー商品」を特集している。売れ続ける理由は、機能性はもちろん、デザインであったり、類似商品が真似できない独自性であったり、時代に合わせた進化であったり。生活雑貨編、酒・飲料編、食品編、お菓子編、文房具編に分けて、30年以上売れ続けている商品の誕生秘話や売れ続ける理由を紐解いている。

 たとえば、夏の風物詩・蚊取り線香「金鳥の渦巻」。1902年に誕生した110年以上続く商品だ。この蚊取り線香が開発されたきっかけは、日本の稲作文化から生まれたものだった。

 

 日本は稲作が中心で水田が多く、昔から蚊の被害に悩まされていた。昔の蚊対策といえば、「蚊遣り火」といって、火鉢にヨモギの葉などをくべて、その煙で蚊を追い払っていた。しかし、この方法だと、煙を沢山焚かなければ効果が得られず煙たいし、火鉢は危ないし、なにより夏の暑い日に火鉢を使う……など不便が多かく、全国の農家を悩ませていた。
 そこに目をつけたのが、大日本除虫菊(金鳥)の創業者・上山英一郎だった。もっと手軽に蚊対策はできないかと考え始め、殺虫効果のある除虫菊の種を譲り受け、栽培し、蚊遣り火に変わる蚊対策の研究に没頭、1890年に蚊取り線香が生まれた。

 

 しかし、当時の線香は棒状だったため約40分しか持たず、長続きさせるために線香を長くすると折れやすくなり持ち運びに不便になるし、細いので煙が少なく、効果を得るためには、2~3本の線香を同時に焚かなければならなかった。
 どうにかならないかと英一郎が考えていると、妻・ユキが、渦巻型にすることを提案。うどん状に切った線香を渦巻型にすることで、蚊取り線香を太く・長くすることに成功。丈夫になり折れにくく、長時間効果を持続できるようになった。こうして、1902年に世界初の渦巻型蚊取り線香が発売された。

 

 こうして発売された蚊取り線香は、蚊の被害に悩まされてきた農家などから支持を受け、日本の夏に必要不可欠な商品となった。その後も、現在に至るまで渦巻き状の蚊取り線香のほか、生活スタイルや住宅環境の変化によって、煙の出ない電気式蚊取りや、ワンプッシュタイプの蚊取りなどもにも変化、日本を飛び出してアジア各国でも人気を博している。
 必要の用から生まれた蚊取り線香。さきがけ的な商品であっただけでなく、消費者のニーズを長年汲み取り、時代の変化にあった進化を続けていることが、蚊取り線香のロングセラーの秘密といえるだろう。

 ちなみに現在、ほとんどの家庭用殺虫剤には、除虫菊の殺虫成分を化学合成した成分が使われているが、蚊取り線香にはいまでも除虫菊を練りこんであり、それが蚊取り線香の昔ながらの香りとなっているのだ。
 蚊取り線香の香りをかぐと、夏の日の記憶がよみがえる人も多いのではないだろうか。「金鳥の夏、日本の夏」は、過言ではない。