遅くとも2033年には、医師の需給が30万人程度で均衡し、それ以降は医師が「過剰供給」になる――2016年3月にこのような推計が発表されました。主に都市部において医師が過剰になっていく一方で、地方での医師不足は改善されるのでしょうか。北海道で在宅医療を推し進める村上智彦医師は、新刊『最強の地域医療』(ベスト新書)の中で「中途半端に何でもやろうとする医師は要らない」と提言。村上医師の同僚、橋本弘史医師が考える、医師にとって働きたい地域とは。

「コンビニ受診」が医師を苦しめている

 

 医師にとって、職場は「病院」だけではありません。私は医師として様々な地域で勤務した経験がありますが、医師の場合は「病院」よりも「地域」がその働きやすさを決めるものです。

 私は研修医の頃に、「働きたくない地域」を経験しました。研修医と言えば、医師として未熟なだけでなく、3~4日に一回の当直があり、精神的にも身体的にも大変です。

 さらに私が勤務していたのは“24時間救急指定病院”でしたので、様々な患者が来ました。もちろん救急の重症患者はたくさんいましたが、それは全体の1~2割程度に過ぎず、その実態は“コンビニ病院”でした。

「3日前から便が出ない」「指輪が抜けない」「眠れないから睡眠薬が欲しい」「歯が痛い」「風邪引いたから、風邪薬が欲しい」「1ヶ月前から腰が痛いから、MRIを撮りたい」「ずっと忙しいから、薬だけ欲しい」「風邪だと思うけど、滅多に病院に来ないから、全身を調べて欲しい」「元気だけど、身体がだるい気がするので、心配だから点滴して欲しい」……キリがないのでこの辺りでやめますが、決して救急ではない患者さんが昼夜、休日を問わずにひっきりなしにやって来るのです。

 そんな中で、一刻一秒を争う心筋梗塞や脳出血、脳梗塞などの患者さんが生きるか死ぬかの状態で横たわって、いつの間にか心肺停止状態になっている……なんてこともある、今考えてもあまりにも恐ろしい状況です。

 ただ、慣れとは怖いものです。最初は、自分たちの権利だけを主張し、それが当たり前だと思う人の多さに驚きましたが、やがて「病院とはそういう場所なのだ」と思うようになります。診療以外の業務の多さに思考が停止していきます。

 自分たちのことしか考えない患者と、夜中にトラブルが起こることもあります。

「何のために24時間やっているんだ! 検査は全てやれ! 早く原因を突き止めろ!」、「明日、何かあったら訴えるぞ!」……ひどい場合には、土下座や金銭の要求、脅し、暴力行為を受ける場合もありました。

 こんなトラブルがあったとしても、全ての場面で医師が批判の矢面に立たされることになります。こんなことなら、さっさと患者の要求どおりにしてしまって、次の救急に備えよう、休みたいと考えるようになります。

 この病院はあまりガラの良くない地域にあったので、特別なケースかと思っていましたが、そうではありません。他の地域の救急病院に勤務した際も、現場の状況はあまり変わりませんでした。この病院は政令指定都市にありましたが、現在では、慢性的な人手不足とスタッフの疲弊のため、救急そのものを止めてしまったようです。皆、自分の権利を主張し、好き放題に使い過ぎた結果なのかもしれません。

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