患者だから入院するのではなく、入院するから患者になってしまう――。夕張をはじめとして地域医療の最前線に立ち続けてきた村上智彦医師は、2015年12月に“血液のがん”急性白血病を発症、154日間の闘病生活と再発を経て、2017年2月にようやく退院に至った。村上医師が患者になった体験をつづった『最強の地域医療』(ベスト新書)から、知られざる「入院の危険性」を解説。

入院は「リスク」である 

 

 2015年12月に発症してからほぼ1年間、すでに3回入院して患者として療養を経験したのですが、「こんなにつらい修行はない!」というくらいつらいものでした。

 私が入院している病棟は朝6時起床、夜9時消灯、シャワーは週3回決まった曜日、高度無菌室や無菌ユニットという特殊な環境に閉じ込められ、食事や面会など、生活の制限も厳しいので、治療というより刑務所に拘留されている状態です。

 全身の倦怠感、下痢、嘔吐、食欲不振、発熱、痛み、苦しみ、長期間、孤独、不安、拘束等、人間が嫌になる要素がすべて揃っている気がします。

 つらい治療の先に治る保証があれば別ですが、必ずしもそんな保証はなく、実際再発をしましたし、退院した今もその可能性は消えていません。

 しかし、出入りを制限された「入院」という環境を安心・安全と勘違いしている人があまりにも多いと思います。

 よく高齢者にとっては病気の種類に関係なく、「入院」という行為自体が死亡や認知症のリスクを2~3倍にするというデータがあります。治る保証や可能性が低い場合には入院治療が必ずしも不安の解消にならず、気がついた時には病気と老化と障害が混在して帰れなくなるのだと思います。

「何かあったらどうする?」「誰が責任を取る?」

 こんなセリフが日本人は大好きみたいですが、病院は病気に対してはある程度治療効果を発揮しますが、障害や老化に対しては対応できません。

 ベッドに横になって歩かないでいると、1週間で筋力は20%程度落ちてしまい、若い人でも歩けなくなってしまうと言われています。

 筋力を低下させるのは簡単ですが、回復させるのにはその2~3倍の時間や労力がかかってしまい、年齢によっては3週間以上寝かせきりにすると回復困難になって寝たきりになってしまいます。

 最近では多くの診療科や医療機関で早期に退院させたり、早期にベッドから起こしてリハビリをしたりするようになってきていますが、それでも入院は非日常の生活ですから運動量は減りますし、体力は低下します。

 血液の病気の場合、感染の予防のため無菌室で過ごすことになります。限られた広さの環境ですので余計に体力の維持が難しいと言えます。

 私自身リハビリテーションはしていましたが、相当筋力は落ちて、体重も約15㎏減りました。

 入院してみて思ったのは、予想通り入院は体力を奪うし、精神的にも個人を「患者」にしてしまうということです。

 世の中に「患者」として生まれてきた人などいません。

 よく「不安だから入院」という言葉を聞きますが、ほとんどの場合周囲の関係者や家族の不安の解消にはなるのかもしれませんが、必ずしも本人のためにはなりません。

 リスクマネジメントが全くできていないと思います。

 医療やケアの分野ではゼロリスク願望とかハザードマネジメント(危険なことが絶対起こらないようにする)になっていますが、そもそもリスクをゼロにするのは不可能です。何かあった場合の責任を専門家に丸投げしようとする感情論にすぎません。

 どんな病気でも可能ならできるだけ入院はしないほうが良いというのが結論です。

(『最強の地域医療』より構成)