独自の世界観を持って理想を学び、考える人へ聞く1週間集中インタビュー企画。U-12野球日本代表の監督を務める仁志敏久氏のキャリアから学んだ「子どもを育てる」うえで欠かせない視点(全三回・第三回)。

Q5.子どもを指導していくなかで感じていることとは?

――今、仁志さんはU-12侍ジャパンの監督をされるなど、これからの野球界を担う世代の指導もされています。お話しされたような経験をどのように伝えられているのでしょうか。

仁志 正しい方向へ自発的に動いていってほしい、と思っているのですが、それは木内さんがやってこられてたことと同じです。こうなって欲しいなと思うことに対して、僕らの言葉がうまくきっかけになってほしい。僕たちのなかで最終的なゴールは設定するんですけど、そこに子どもたちが向かっていくために誘導するように問いかけていく感じですかね。

――逆算していく。

仁志 そうですね。あとはもっととてつもない先を見据えていますね。究極的には今、指導している子どもたちが将来大人になって、指導者になったときにそれを覚えていて、指導がつながっていってほしい。

――仁志さんが木内さんから受けたような。

仁志 はい。僕は今も昔も子どもは変わらないと思っています。変わっているのは誰か、と言えば大人なんですよ。だから大人が子どもの前でまともであること。そういう大人とたくさん会えば子どもだってまともに育っていくはずです。今の子どもがまともじゃない、という意味ではないですよ。現役を引退して、多くの指導者の方に会って知ったのは、野球をやっている今の子どもたちの99%はプロ野球選手になれない、そして全員が全員プロ野球選手を目指しているわけではない、ということでした。当たり前のことだと思われるかもしれませんが、現役の頃の僕はそれをきちんと理解できていなかった。僕は運よく、指導者たちの言うことをうまくできたけれど、そうじゃない人のほうが多いわけです。ということは、技術だけじゃなく野球のスタイルを教えてあげなきゃいけない。それって木内さんが僕らにやってくれたことと同じだったんですね。だから今の指導が、将来、子どもたちが指導者になったときに覚えていてくれるようなものでありたいと思って指導しているわけです。

――その方法というのは、どういうものでしょうか。

仁志 覚えてもらうには印象に残らなければいけないわけで、そのひとつは言葉です。でも、一番印象に残るのは、子どもが自分自身で行動を起こした時や自分の考えで発言をした時なんですよね。だから主導的にいい発言、いい行動ができるよう、かける言葉を探して話すことを意識していますね。

 

――具体的には問いかけをする。

仁志 一人に対して話すこともありますが、基本的には全員に向けて話しをします。(代表があるときは)毎回ミーティングをするんですけど、自分の中でその日のミーティングのテーマを考えています。そのテーマは直接言うことはありません。それを知ってもらいたいから、どういう言葉を使ったらいいかを考え、理解してもらうようにしています。

――一般的に見れば、U-12代表にいる選手は「選ばれた選手」です。それでも、プロにはいけない、という意識がある。

仁志 当然そうです。

――だからこそ、その先を考える。

仁志 もし、子どもたちが将来も野球に携わるなら、プレイヤーとしても指導者としても周りから尊敬されるような大人になり、信頼される指導者になってほしいと思います。そのときも今と状況は同じになるわけですよね。指導する相手は子ども、その子どもを左右するのは大人、という。

――なるほど。いい大人が少ないという危機感もあるのでしょうか?

仁志 子どもたちに幻滅をしてほしくないんです。いろんな指導者がいますが、もし子どものころから幻滅するような人に見たり会ったりしてきたら……そのたびに幻滅するわけですよ。もちろん、大人といえども人間ですからね、裏を返せばダメなところもあるでしょうけど、せめて子どもの前ではという思いが強いですね。

――そういう問題意識っていうのはご自身の経験からですか。

仁志 そういうこともあったということですね。

――例えば、極論ですが体罰という問題がクローズアップされ、解決をみないでいます。というのも、一部の野球経験者からは「それがあったから今があった」という声もあるわけです。実際、私(インタビュアー)も、大学まで野球をしてきた中で、何度もケツバットをされたけれど、実は監督が嫌いではありませんでした。

仁志 そういう指導者は、おそらく人間的に接してくれていたのだろうと思います。だから叩いたことが本人にとって問題にならなかった。僕も叩かれたことはありますけど、何とも思わなかった。体罰問題は難しいです。許していいことではない。でもだからと言って体罰と体罰じゃないことを区別できる大人がどれだけいるんだろう、という思いもある。

――それを判断するのも大人になってしまいますしね。

仁志 そうですね。問題となるのは、結局声を荒げない、叩くことをしないで怒るというのは、すごく能力がいるんですよね。しかも受け取る子どもはまだまだボキャブラリーも少ないから、相当な能力ないと遠回しに伝えることができない。だから激高する、叩くっていうのは一番簡単で近道の方法となってしまう。

――つまり、今は大人のレベルが問われている時代。

仁志 だと思いますよ。子どもの頭のレベルは上がってるんですけど、大人のレベルはいかんせん上がらないじゃないですか。そもそも論として、情報量が違います。僕らの子どもの頃はスマホもパソコンもないし、ネットなんかない。今の子どもたちが大人になった時に、ようやく今の子どもと同じレベルの大人が出来上がるわけですよ。

――だからこそ、とてつもない先を見据えた指導が必要。

仁志 ですね。そもそもその情報もこれからもっと変化していきます。野球界も同じことが言えて、僕が野球のことを語れるなんていうのも、ある程度の世代までだと思うんですよ。今の選手たちのレベルは僕らが語れるレベルじゃないんですよ。

――それは今の方が上ということですか?

仁志 そうですね。単純な話、僕らの時代にピッチャーが150㎞なんか出したら大騒ぎでしたから。でも今はそんなに騒がれませんよね。

――指導のベースにはそういう現状認識もあるわけですね。

仁志 はい。大人の責任は本当に重要だと思います。