英国のEU離脱やトランプ政権樹立など数々の「予言」が的中。世界中でその発言に注目が集まっているフランスの人類学者エマニュエル•トッド氏。明治大学で「トッド入門」講義を展開し、新刊『エマニュエル•トッドで紐解く世界史の深層』を上梓する鹿島教授が、世界史の深層を読み解き、混沌とする現代社会の問題を鋭く斬る!

■必ず崩壊する国家の法則とは?

 

「外婚制共同体家族国家は必ずどこかの時点で崩壊する」——。

 これは、いま、世界で注目を集めているフランスの人類学者エマニュエル•トッドの家類型論から導き出される結論です。トッドは、「家族システム」という考え方において、家族をその類似点と相違点から、大きく4つの類型に整理して考えています。その一つが、外婚制共同体家族国家です。特徴としては、「男子は長男、次男以下の区別なく、結婚後も両親と同居。そのため、かなりの大家族となる。父親の権威は強く、兄弟たちは結婚後もその権威に従う。ただし、父親の死後は、財産は完全に兄弟同士で平等に分割され、兄弟はこのときにそれぞれ独立した家を構える」などがあげられます。ロシアや中国がこのタイプとなります。

■ ソ連が崩壊し、プーチンで社会が安定する理由

 ソ連の崩壊を、トッドは1976年の著書『最後の転落』で予言し、実際にソ連は1991年に崩壊しました。

 では、80年代までのソ連に匹敵する共産主義大国、現在の中国はどうなのか。やはり崩壊するのか。

 慎重なトッドは、断言はしていません。しかし、「カタストロフィーのシナリオも考えられる」という答えは出しています。その理由の一つは、家族類型に内在する危機です。外婚制共同体家族社会では、カリスマ的な父親が、権力者と権威者を兼ねた独裁者として君臨する一方、兄弟=国民が横並びに並んで従います。これは縦型の権威主義と、横型の平等主義を二つ合わせたものですが、この二つはうまく折り合うバランスを見つけるのが非常に難しく、常に、構造的な危機を内包しています。

 その危機が顕在化するのは、権力者である「父親」の死、つまり命令系統を失って、横型の平等主義だけになるときです。スターリンの死後は、フルシチョフ、ブルガーニン、ベリヤのトロイカ(三頭政治)になりましたが、結局、それはうまく機能せず、ブレジネフの独裁となってようやく安定しました。しかし、ブレジネフ程度の独裁者では横の平等との釣り合いを取るのがむずかしく、ブレジネフの死後は混迷が続きました。次に登場したのがゴルバチョフでしたが、ゴルバチョフはたまたま民主的な人物だったので、ペレストロイカ(民主主義の導入)を図りました。しかし、外婚制共同体社会には民主主義は向いていないのです。なぜなら、民主主義だとすぐに無秩序社会になってしまうからです。

 かくて、ソ連は大瓦解し、その廃墟の中からプーチンという独裁者が現れて、ようやく社会は安定を見たのです。

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