「世界一お洒落なのは、フランス人」。多くの人が何となくそんなイメージを持っていることと思います。それでは、フランス人のお洒落センスはどうやって磨かれてきたのでしょうか? フランス文学者の鹿島茂教授が、フランス人類学者エマニュエル•トッド氏の家族理論を使って、世界史の深層を読み解き、混沌とする現代社会の問題を考えます。新刊『エマニュエル•トッドで紐解く世界史の深層』から、こうした文化や社会の謎を紐解いていきましょう。
 

 ドイツに並ぶ、ヨーロッパのもう一つの大国、フランス。この国の家族形態から、いろいろなことが「見えて」きます。

 この国の家族形態は「平等主義核家族」です。トッドは、「家族システム」という考え方において、家族をその類似点と相違点から大きく4つの類型に整理して考えており、フランスはこの分類では「平等主義核家族」に分類されているのです。家族に見られる特徴としては、「親は早めに子供と関係が切れて、子供が結婚したあとに同居しない。兄弟どうしが「平等」の扱いになり、財産は兄弟どうしで、原則として完全に「平等分割」される」。といったことがあげられます。平等主義核家族はフランス(パリ盆地)のほかに、スペインやポーランド、イタリア(南部)などがあります。

■土地よりも大事なもの、それは家具!

 フランスの、特にパリ盆地一帯は、肥沃な土壌を持つ平坦な地域ですが、開放耕地(オープン・フィールド)と呼ばれる広大な農地は領主貴族や大ブルジョワが保有し、農民は小作料を払って土地を借り、そこから上がった利益を歩合で分割する分益小作制に組み込まれています。フランス革命で農地解放が行なわれ、自作農が成立するまで、この土地制度が続いていました。農民自体が土地を私有しているわけではないため、財産として土地を子に受け継がせることはできなかったのです。

 したがって、相続できるものは「動産」のみとなります。農具、工具、家畜、食器、家具、衣服などを兄弟は遺産として平等に分割します。この「動産が大事」の名残はフランスでは第二次大戦後まで続いていて、民衆にとって家具というのは最大の財産でした。フランスの安ホテルはしばらく前まで「家具付きホテル Hotel meuble(garni) 」と名乗っていましたが、これは「家具付きのホテル」はえらいという信仰の影響であり、「土地よりも家具が大事」のメンタリティの名残なのです。

■ 家賃よりも高い家具の借り賃

 また、動産を平等分割するフランスでは、その動産を金銭に換えるためのオークションも発達しました。動産をオークションで換金し、均等に分けるということもしばしばあったようです。フランスで個人の財産管理を任されている公証人の重要な仕事は相続が生じたとき動産をオークションにかけ、合計金額を相続人に平等に分割するという仕事でした。だから、相続にはオークションは不可欠になるのです。

 オペラにもなっているアレクサンドル・デュマ・フィス(小デュマ)の『椿姫』は、娼婦マルグリットの遺産のオークションの場面から始まります。フランスでは日ごろ目にすることの多い出来事だったのでしょう。

 家具は民衆にとっては貴重な財産でした。そのため、アパルトマンが安いのに対して、家具が高いという傾向は二〇世紀半ばまでありました。日本人の皇族がパリでアパルトマンを借りた記録が残っているのですが、それを見ると、家賃よりも家具の借り賃が高いのに驚きます。

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