いまや世界共通語である「UMAMI(うま味)」。前代未聞のうま味調味料「味の素」が誕生した契機は、明治時代の科学者による、世紀の大発見にあった! 雑誌『一個人』2017年5月号より、ロングセラー食品「味の素」の秘密に迫る。

日本発祥の調味料が世界中の料理に変革をもたらした

 昆布やカツオ節などでとるだしは「日本人の心」といわれ、世界無形文化遺産に認定されている和食の原点である。
 古来日本人が使い続けてきただし=うま味の成分が科学的に解明されたのは、明治時代のこと。東京帝国大学で教鞭をとる科学者、池田菊苗教授が湯豆腐を食べながら、ふとその旨さが気になった。昆布だしのうま味の正体は何かーー。池田教授はそれが独立した成分であるとの仮説を立て、その正体がアミノ酸の一種、グルタミン酸であることを突きとめた。

 池田教授の研究成果をもとに、世界初のうま味調味料「味の素」が発売されたのは明治42年(1909)。当初はなかなか売れなかったが、チンドン屋を起用したビラ配りなど、地道な宣伝活動が功を奏し、売り上げを着実に伸ばしていった。また、発売翌年には台湾に特約店を設置。いち早く海外進出も遂げた。
 味の素KKで和風調味料グループ長を務める島谷達也さんは、その経緯についてこう語る。
「うま味は今でこそ、甘、苦、酸、塩と並ぶ基本五味の一つです。日本人がその成分を発見できたのは、素材の味をだしと合わせて楽しむという、繊細で独特な和食文化があってこそ。『味の素』は誰にとってもおいしいと感じられるユニバーサルな調味料でしたから、当時の経営陣は確固たる自信をもって海外展開を行ったのだと思います」。

 料理がパッとおいしくなる。そんな魔法のような調味料である「味の素」の歴史は、あらぬ噂との闘いでもあった。当初から原料や成分について憶測が飛び交い、「ヘビを使っている」というデマまで生まれた。関東大震災時に、原料の小麦を避難者に分け与えたのだが、「そこでようやく、信じてもらえたそうです」と島谷さんは笑う。

「現在は世界各地の工場で、サトウキビを中心にコーンやキャッサバイモなど、現地で栽培される糖質を含む植物をベースの原料とし、グルタミン酸を産生する発酵菌の働きで製造してます。グルタミン酸はチーズやトマトにも含まれるうま味です」。
 これにナトリウムをつけたものが、「味の素」の主成分だが、そのメカニズムはなかなか理解されづらい。そのため、1世紀にわたり地道なPR活動を続けてきたことで、「味の素」は確固たるブランドとして育てられてきた。
「味の素」から始まったアミノ酸の研究成果は調味料の枠を越え、今では医療利用もされて人々の健康に役立つ存在になっている。

※「味の素」は味の素KK登録商標です。

雑誌『一個人』2017年5月号より〉