<第84回>

9月×日

【トートバック】

 

いま、オフィス北野の夫婦芸人・ホロッコの舞台のプロデューサーをやっている。

プロデューサーと聞くと、たいていの人はカーディガンを肩に巻いて、打ち合わせの間もずっとiPhoneばっかり眺めながら次の外車はなにを購入するか検討していて、あとは銀座で寿司ばっかり食べてる、みたいな華麗なイメージを浮かべる人が多いと思うが、実際には全然違う。

もう、舞台のプロデューサー業というのは、泥作業みたいなものだ。チケット枚数を決め、フライヤーを作り、前売り発売日を設定し、稽古場を用意して、台本や演出にチェックを入れ、スタッフたちの弁当を用意して、なんなら小道具を買いにいく。雑務のエレクトリカルパレードである。

芸人を、舞台の上でどう見せるか。そのフレーム作りをするのがプロデューサーの仕事で、やることは膨大にある。普段、机の上でしか仕事をしていない身としてはなかなかにキツい仕事でもあるが、でもやっぱり、楽しい。

で、楽しくなってくると、やりたいことも増えてくるわけで、本番を二週間前に控えた今日、「そうだ!ホロッコのグッズを作ろう!」と閃いた。

ありがたいことにお客さんの予約の入りがよく、ならばちょっとした御礼の意味も込めてホロッコのグッズを用意しそれを舞台を観た記念に持って帰っていただこう、と思いついたのである。

いわゆる、物販というやつだ。

とはいえ、すでに本番までの時間は残りわずか。あまり手の込んだグッズを作る時間は、ない。かといって、爪楊枝の先にドングリを刺して「手作りのコマでございます」とか販売してもそれはそれでお客さんにぶん殴られる。

ああでもないこうでもないと自分ミーティングを重ねた結果、オリジナルのコットンバッグとかがちょうどいいのではないかということになった。

ホロッコをモチーフにしたデザインを施した、コットンバッグ。これだったらデザインにこだわったとしても、あとはプリントするだけなので、短い準備期間であったとしてもギリギリで本番当日に間に合う。

さっそく、「コットンバッグ  オリジナル プリント」で検索。

たくさんのプリント業者のサイトが画面上に現れる。どれにしたらいいものか。とりあえずアバウトに「業界最安値!」を謳うサイトへと入る。

どうやらその業者は、学園祭のクラスTシャツなどを作ることを得意としているようで、

「学校の行事でオリジナルのTシャツを作りたいときは、私たちにご相談ください!」という文字がトップページにFLASHで蠢いている。Tシャツ以外の布製品も扱っているようだ。

見ると、コットンバックが一枚二十円で売られている。おお、こんなに安いのか。百枚作っても、二千円。まあ、そこにプリント代が乗るわけだが、片面の、それも小さいロゴしか入れない予定なので、そんなにするものでもないだろう。おそらくだが、コットンバックの原価が二十円+印刷代が一枚につき五百円くらい。百枚でだいたい、五万円くらいのはず。これだったら全然予算内だ。さっそく、無料見積りをするべく、フォームに希望のカラーやサイズ、注文数などを打ち込んだ。

「フォームが送信されました!担当者がただいま見積もりを計算しております!見積もりが出ましたらメールいたします!」

ん?と思った。

自動計算ではなく、人力で見積もりを出すなんて、アナログというか、なんというか。

なんとなく、妙なものを感じながらも、メールを待つ。

三十分後、見積もりのメールが届いた。

「こんにちは、見積もりを担当させていただいた、○○です」

丁寧に、挨拶がある。

「今回、お客様がご注文いただいた商品のお見積りをお知らせいたします」

いや、まだ商品を注文したわけではなく、見積もりを頼んだだけなのだが。

「今回の見積額は」

下へスクロールしていく。

「百二十万円です」

いやいやいやいや。

え?

いやいやいや。

バカか。

百枚のコットンバックが、ちょっとプリントを入れただけで、百二十万円って。

一枚、一万二千円ではないか。

なんだ?この業者は、金銭感覚がおかしいのか?石油王なのか?

すると、電話が鳴った。

出ると、それはプリント業者からであった。

「お見積りには納得いただけたでしょうか?それでは今後の流れを説明させていただきます。まずは入金いただき…」

いやいやいやいや。

もう、やってること、ギリギリではないか。

「見積もりを頼んだだけですので!」

そう告げて、電話を切った。

久々に、恐ろしい世界を見た。

まず、安価を謳って、客を引く。

そして無料見積りをさせる。

しかし、見積もりを出す時に「わざわざスタッフの労力を使って計算しました」感を客に押し付ける。

そのうえで、どかんと高価な金額を提示する。

客が慌てている、そのタイミングに間髪入れず直電話で追い込む。

なんとういうか、違法ギリギリのビジネススタイル。

学園祭のクラスTシャツを得意としているのも、なんとなく頷ける。若き学生たちの中には、何気なしにこの業者に見積もりを頼んで、そしてダークな商法に巻き込まれて、わけもわからないまま、「まあクラスのお金だからいいか…」みたいな感じで高額なプリント代を払ってしまう者もいるだろう。

まったく、風上にもおけない業者もいたものだ。

安いものには、罠がある。それをつくづくと感じた、今日であった。

そして、コットンバックを諦め、僕は爪楊枝を片手に公園までドングリを拾いに出かけたのである。

 

 

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