いまも語り継がれる哲学者たちの言葉。自分たちには遠く及ぶことのない天才……そんなイメージがある。そんな「哲学者」はいかに生き、どのような日常を過ごしたのか?

紀元前624年頃 - 紀元前546年頃。今から2500年以上前の哲学者で、ソクラテスは約100年後に生まれている。

星空に熱中し、溝に落ちた

「哲学者」といえば、とかく浮世離れした人物のようなイメージがある。ソクラテス、ルソー、カント、ニーチェ、ウィトゲンシュタイン……有名な哲学者は皆、個性的な生き方をしていた。彼らの思想は、分厚い哲学書を読むだけでなく、個性的な生き様にも表現されている。世界最古の哲学者とされているタレスという人物もまた、個性的な生き方をしていた人物だった。第一回はそのタレスの生涯を追う。

「あなたは足元にあるものさえ見えないのに、天上にあるものを知ることができるのか!?」

 タレスは夜な夜な月や星の観測のために外を出歩いていた。だが、あまりにも星空に熱中してしまい、ずっと上ばかり見上げて歩いていたために、道端の溝に気づかず転落してしまったことがあった。

 

 この時のタレスの星空観測には女性がお供していたそうだが、タレスのあまりの熱心さに呆れるあまり口をついて出たのが上の言葉である。
 お供していた女性は老婆だったという説があるが、もし若い女性との夜のデートの途中だったとしたら、お相手の女性はさぞかし興醒めしたのではないだろうか。
 タレスは生涯独身で養子をもらったと言われている(結婚して子供をもうけたという話もある)。

 適齢期を迎えたタレスを見かねて、ある時母親が無理矢理結婚させようとした。だがタレスは「まだその時期ではない」と答え、キッパリ断った。
 しかし、しばらく年月が経ち、母親がもう一度タレスに結婚の話をした時には「もはやその時期ではない」と答え、再び断ったらしい。つまり、そもそも最初から結婚するつもりはなかったということなのだろう。

 こういった逸話からは、俗世間に興味がなく、世界の真理を探究することにばかり考えているような人物像が浮かび上がってくる。

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