仕事命、会社命という古い価値観は、もう見直したほうがいい――。ライフネット生命会長・出口治明氏は、そう言い切る。60歳を過ぎて起業し、経営者として最前線に立った出口氏は意外にも仕事に対して1歩引いたスタンスで向き合っていた。

仕事の時間は人生の2~3割に過ぎない

 

 たとえば、1年間を通して僕たちが仕事に費やしている時間は、どれくらいの割合になるのでしょうか?

 大まかな数字を挙げると、残業を入れたとして、だいたい2000時間といったところではないかと思います。

 それに対して、1年間は何時間あるのかというと、1日24時間×365日=8760時間です。仕事に費やしている時間の割合は8760分の2000、わずか2~3割に過ぎません。

 そして、残りの7~8割の時間を使って、僕たちは、家族や友人と一緒に飲んだり食べたり、眠ったり、趣味に没頭したり、勉強したり、子育てなどをしているのです。

2~3割の仕事と7~8割の生活――。

 この割合を見れば、自分の人生にとって、どちらが重要なのかは一目瞭然です。

 家族や友人はかけがえのないものですが、同じような仕事をする人はいくらでもいます。つまり、2~3割の仕事の時間は、この7~8割のライフ、すなわちプライベートな時間を支えるための手段でしかないのです。

 だから、僕があえて言いたいのは、人間にとって、仕事は「どうでもいいもの」であるということです。

 職場の人間関係がうまくいかない、仕事の内容が難しくて理解できない、営業の成績がぜんぜん伸びない、出世に取り残されている……など、現代の日本社会では、仕事上の悩みを抱える人が数え切れないほど存在します。

 会社の健康診断を請け負っている医療機関の人から、「日本では抗うつ剤を使っている大人が多すぎる」という話を聞いたことがありますし、仕事に行き詰まって自殺してしまう人さえいます。

 仕事をしていれば、誰にでも悩みは付き物ですが、一方で、先述した通り、仕事の時間は人生の2~3割に過ぎないということを知っていれば、「たかだか2~3割の仕事にこんなに悩んでいてもしょうがない」「たかだか2~3割のことだから、上司や周囲の目など気にせずに、自分の信じることを思い切ってやってみればいい」と思えるのではないでしょうか。その方が、よい結果が出るかもしれません。

 人生は楽しむためにあるものです。仕事や職場は決して人生のすべてではありません。それらを背負い込み、思い悩みすぎて自分を壊してしまうとしたら本末転倒もいいところです。

 どうしても仕事がうまくいかなければ、無理することなく、職場を替えてしまったらいいのです。

 経営者の僕が、仕事は「どうでもいいもの」だと言うと、怒る人がいるかもしれません。

 しかし、そうした姿勢で仕事に向き合うことによって、従業員のうつや自殺が減るのだとしたら、社会にとってどれほどプラスになることでしょう。

 高度成長時代ほどではないにせよ、今もなお続いている仕事命、会社命という古い価値観は、もう見直したほうがいいと思います。

明日の質問は「Q.24 ブラック企業についてはどのようにお考えですか?」です。