人名に由来する言葉のユニークな歴史

写真を拡大 ▲「出歯亀」はのぞき魔…どころか、猟奇殺人者だった。江戸川乱歩『変態殺人篇』(C)国立国会図書館

 鳥山明の漫画『ドラゴンボール』には、主人公の孫悟空とともに第1話から登場している女性のキャラクターがいる。その名は「ブルマ」。女性の名前としては違和感を覚えるかもしれないが、じつは運動着としてのブルマは、女性の名前が由来なのだ。

 諸説あるものの、ブルマを世に広めたのは、アメリア・ジェンクス・ブルーマーという女性とされる。彼女は、19世紀のアメリカで女性解放運動家として活動していた。当時の女性の下着といえば体を締め付けるタイプのものが多く、もっと自由で動きやすいものをという思いで作られたという。
 ブルマの原型は膝丈あたりまでの長さがあり、ズボンの裾をしぼったような形状だった。これをスカートの下に着用するスタイルだったが、女性がズボンを履くことを良しとしない社会においては、あまり普及しなかったようだ。

 20世紀になると、女性も労働やスポーツをすることが多くなり、運動着として普及していくことになる。日本でも明治時代に持ち込まれ、いわゆる「ちょうちんブルマ」という形状から、より運動に適した現在のスタイルへと進化していく。
 しかし、ボディラインが強調されることから性的な目で見られることが増え、現在ではほとんど見られない。女性解放の象徴ともいわれるブルマが、このように消滅しかかっているのは残念な話である。

 このように、物の名前の由来を調べていくと、人名由来のものが多いことに気づく。「サンドイッチ」や「レントゲン」など、外来語にはとくに多く見られるが、日本語にも人名由来の言葉は存在する。
 漬物の「たくあん」は、沢庵という僧侶の名が由来しているという説があり、京都土産の定番「八ッ橋」は、箏曲八橋流創始者の八橋検校の名に由来するとされる。

 自分の名がものの名前となって後世に伝えられるとは誇らしいが、不名誉ともいえそうな言葉も少なくない。

 たとえば、水死体を意味する「土左衛門(どざえもん)」という言葉は、江戸時代の成瀬川土座衛門という力士の名に由来するという説がある。水死体は水によって膨張し、その姿を彼のようだと揶揄したことにあるという。

 また、変質者をののしる際に使われる「出歯亀」という言葉は、女湯のぞきの常習犯だった池田亀太郎のあだ名が由来。彼は出っ歯だったので、名前の一部と組み合わせてこのようなあだ名がついたとされる。のちにこの出歯亀は、銭湯帰りの女性を殺害したとして逮捕され、変質者や助平な男性の蔑称としてこの名が使われるようになったそうだ。

 発明者の名前がそのものにも名づけられることは多いが、こうした事件がきっかけとなって新語が誕生することもある。
 身の回りのものの名前を調べてみると、誕生した背景や当時の風俗もわかるものだ。実物からは想像できない名前ほど、ユニークな歴史が隠されているかもしれない。