断トツの数字を誇るカープ打線

「あと1本が出なかった」
 野球において、負けたチームから出てくる言葉のひとつだ。
 チャンスは作ったけれど、タイムリーヒットが出なかった、というのがその趣旨である。はたしてここから残塁数はよくない指標として認知されるようになった。

 今シーズンのプロ野球。交流戦に突入してもセ・リーグ首位を維持しているカープは打線が好調だ。チーム打率は.276、ホームラン53本。得点は282を数え、一試合あたり5.2得点という数字は、各部門リーグ2位のチームと比較しても(打率:.246・タイガース、ホームラン:39本・ドラゴンズ、得点:216・タイガース)断トツである(いずれも6月3日現在)。

 強力打線と言って差し支えない打撃陣は常識にとらわれないところにその秘密がある。一軍打撃コーチの石井琢朗は自らの連載「タク論。」(BEST T!MES)のなかでこう言う。

『残塁が多くてもいいし、得点圏打率が低くてもいい。まあ、それは少なくて高いにこしたことはないんですけど、でもそこでゲームの勝敗は決まりませんからね』

 どういうことか。

『個人の成績だけでいえばヒットやホームランが満点。だからチャンスになったら「俺が返すんだ」という100点満点を目指す気持ちは大事。一方で、今まで感じていたのは「漠然と100点満点を目指して打席に立って、結果0点で終わってしまう」とか「チャンスだから絶対ヒット打たなきゃ、ホームラン打たなきゃという気持ちが強すぎて逆に失敗していたんじゃないか」ということ。
 まずは、そうじゃないんだっていうことが「100点を目指さない」ことなわけです。だって凡打でも得点できる場面というのはたくさんあるわけですから。』(タク論。)
 得点する方法はヒットやホームランだけではなく、内野ゴロでもフォアボールでも犠牲フライやエラーだって選択肢になりうる。逆に何も起きないのが三振だ、と石井コーチは書く。

 

 タイムリーヒットを目指さないのはいわばマイナス思考かもしれない。でも、その気持ちの持ちようが『実は最高の結果を出すためにプラスに働くんです。マイナスから入ることで打席の中で気持ちに余裕ができて、最低限が最高の結果になったりするわけですよ。』(同)。

 「あと1本が出ない」「残塁が多い」――野球の常識を逆手にとったところに強力カープ打線の秘密があるのかもしれない。
タク論。打線に重要なあとづけ論