働き方改革が叫ばれて久しい。ここにひとつの成功例がある。株式会社武蔵野は、数年前からパート社員の雇用環境改善に取り組み、過去最高売上、最高益を更新した。同社は、iPadを全従業員に支給して効率化、残業改革、非正規雇用社員の雇用環境改善など、時代の先駆けとなる改革を行った。『儲かりたいならパート社員を武器にしなさい』(ベスト新書)が話題を呼ぶ代表取締役社長・小山昇氏に聞く。

「よいこと」ではなく「成果が出ること」をやる

――IT化に代表されるように、武蔵野では常に時代の先を行く変化を取り入れていますが、なぜ、新しい取り組みを定着させることができるのでしょうか。

 

 それは簡単です。まず、「成果が出ないことはやらない」というのがひとつ。
 多くの社長が「よいことをやろう」と考えます。ですが、「よいこと」をしたからといって、お客様の数が増えたり、業績が上がるとは限りません。だから私は、「よいこと」ではなく「成果が出ること」をやっています。

 それからもうひとつは、成果が出そうだと思ったことは、できるようになるまでお金をどんどん使っているからです(笑)。
 新しいしくみがうまく定着しないとき、普通の会社は、社員が「できません」と報告をして、社長はそれを受け入れる。
 ところが私の場合は、社員から「できません」と言われたら、こう言い返します。
「いくらお金を使ったの? いくら人を投入したの? できるまで、1億でも2億でも使えーーー!」って(笑)。ここまで言われた社員は、やらない理由がありませんよね。だから社員は、嫌々ながらしかたなく、できるようになるまでやるわけです(笑)。

 武蔵野では、パート・アルバイト、内定者も含め、全従業員にタブレット端末(iPadやiPad mini )を支給しています。金額にして、「ウン千万円」の投資です。
 普通の社長は、パート・アルバイトにまで配布することはありません。なぜなら、「お金がもったいない」と考えるから。
 でも、渡さないほうがもったいない。全従業員がiPadを使いこなすようになれば、バックヤードのIT化が進んで、残業を減らしながら利益を上げることが可能になります。それに、ITツールを大量に導入すれば、「全員が同じ端末を持つことで、従業員同士で使い方を教え合うようになる」「機種・インフラが同じなので、部署の異動があってもストレスなく仕事を始められる」などのメリットがあります。
 従業員にiPadを支給した当初は、「使い方がよくわからない」「紙の書類に慣れているので、今さらやり方を変えたくない」など、みんなブーブー文句を言っていました。けれど私が「じゃあ、紙に戻すからiPadを返却しろ」と言うと、「それは嫌だ」とまた文句が出ます(笑)。

――ITツールをどのように活用しているのですか。

 バックヤードはデジタルでドンドン簡素化と共有化を計っています。
 たとえば、わが社では「チャットワーク」というビジネスチャットツールを使って、タスクごとの案件管理に活用しています。小さなタスクを多く立ち上げて、終わったら捨てるのが基本です。
 また、チャットワークを使うと紙が不要になります。紙がなくなると、調べるのが簡単になるので、情報を探す時間を節約できます。画像データを送ることもできる。

 稟議も、スピード決済です。ほとんどの稟議が、1日で通ります。
 わが社では、稟議をウェブ上で承認できる「スピード決裁」というシステムを導入しています。これまでは、社員が稟議書を提出すると、上司、その上司など、実に8人の承認者を挟んでから、最後に私が承認するという経路でした。でもそれでは時間がかかります。
 そこで現在では、承認者の人数を減らして、いち早く私が決済できるしくみに変えています。

――成果が出そうかどうかを見極めるポイントはどこにありますか?

「やさしいか、やさしくないか」です。
 多くの社長は「難しいこと」を取り入れようとしますが、私の場合は「やさしいこと」しか導入しません。難しいことは、一部の人しかできない。けれど、やさしいことなら、全員ができます。

 武蔵野は「環境整備」という朝30分の掃除をしくみ化していますが、掃除を経営の柱に据えているのは、掃除なら学歴も能力も年齢も関係なく、誰にでもできるからです。
 100m走に例えるなら、「100mを9秒台で走れる人」は武蔵野には必要ありません。スーパーマンがひとりいても、競争には勝てません。
「100mを全員が13秒で走れる」ほうが、結果としては速い。誰かひとりが倒れても、別の人間が代わりを務めることができるので、常に13秒台を維持できます。誰にでもできるやさしいことを徹底し、全員でやる。だから武蔵野は強いんです。