一生名古屋から出ないことの多い名古屋人は、住むには名古屋が一番だと思っている。名古屋人は、なぜそこまで「名古屋びいき」なのか? 清水義範氏が『日本の異界 名古屋』(ベスト新書)でその理由を語る。

◆東京への劣等感はあるが、住みたいとは思わない名古屋人

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 名古屋が一番住みやすい街、と考えている名古屋人は、東京や大阪のことをどう思っているのであろうか。まず東京について考えてみよう。

 名古屋人も、東京が日本の首都であり、最大の都会であることは認めている。そして、東京に対してはある種の劣等感を抱いている。

 なんと言ってもあの大きさはすごいわ、という気分だ。東京には銀座がある。それだけでもちょっと負けそう。東京には渋谷もあって若者がたむろしている。新宿もある。上野も浅草もあって、賑わっている。そういう点ではちょっと名古屋ではたちうちできない。東京タワーがあるだけでも勝てないなと思っていたのに、スカイツリーまでできてしまって完敗である。

 そういうふうに、名古屋人は東京には負けていると感じている。だがそれは、だから東京に住みたい、という思いとはまるで別のものだ。

 東京に住みたいとはまったく思わない。東京とは、全国から人が出てきてわさわさと住んでいるところであり、人と人との間につながりがなくバラバラなのだ。アパート住まいをしたとしても、隣の部屋の住人の顔も知らなかったりなのだ。そんなふうに孤独な人間が集まっているだけなのが東京。

 だからそれは、街ではないのだ。

 名古屋人は、知り合いの群れの中に生きている。だから心が安まるのだ。名古屋こそ人が住むところで、東京は人の住むところではない。東京は仕事のためにやむなくいるところなのだ。名古屋人はそんなふうに感じている。

 だから、東京の大きさに少し劣等感を抱いているものの、東京のほうがいいんだとは思っていない。住むのは名古屋が一番なのである。

 東京とはやむなくいるところ、だと考えていくと、私はニヤニヤしてあるエピソードを思い出す。それは、大沢在昌さんと対談した時に聞いた話だ。

 大沢さんは名古屋の出身で、大学生になる時に東京に出た人だ。そして東京で社会人になり、その後、ハードボイルド・ミステリーの作家になった。『新宿鮫 無間人形』で直木賞も取って、文句のつけようがない東京の人になっている。

 ところがその大沢さんが、名古屋にいる高校時代の友人に会うと、こんなことを言われてしまうのだそうだ。「おみゃあは長男だで、そろそろ名古屋に帰ってきて親の面倒見ないかんがや」あの大沢さんにそんなことを言うのである。

 名古屋の人間は名古屋に暮らすもの、という思い込みの強さに驚かされる。そういう意味では、名古屋人は東京のことを少しもうらやましいとは思っていないのだ。

 そもそも名古屋は住むのにベストなところなのだから、東京と対抗させようという意識もない。東京はいろんな意味ですごいよね、とぼんやり思っているだけなのだ。

では、大阪や京都、その他の地域についてはどう思っているのか。それは『日本の異界 名古屋』(ベスト新書)に詳しい。