室町時代の能楽者・世阿弥の書を愛読しているという、ジャパネットたかた創業者の髙田明さん。髙田さんの独特で伝わりやすい話術は、実は世阿弥の考え方と共通する部分が多いといいます。

――世阿弥の本を読まれるとのことですが、世阿弥のすごさとはなんですか? 

 前にもお話ししましたが、世阿弥は、室町時代に活躍した能楽者の観阿弥・世阿弥の世阿弥です。「能」を広めた人で、能楽において役者がどういうふうに舞えば伝わるかなど、一流であるために必要なことを記したのが、「花鏡」「風姿花伝」です。

 ご存じのとおり、わたし自身、長い間テレビショッピングに出演していました。常に考えていたのは、生放送という時間的な制約があるなかでいかに「伝わる」番組にするかということ。
 長い間やらせてもらっていましたから、自分なりに大事なことやポイントは感覚的には持っていました。世阿弥の書いていることは、まさにわたしが考えていたようなことだったんです。

 例えば世阿弥は「一調二機三声」という声を出すまでのステップが伝えるうえで非常に大事だと記しています。

一調は、声の張りや高さを心と体の中で整えること。
二機は、間を取って、いつその声を出すかのタイミングを推し量ること。
三声は、そのふたつをもって実際に声を出すこと。

 これは、私も常に心がけてきたことでした。特に「間」は大事です。ジャパネットの場合、テレビショッピングは生放送がほとんどです。いつ、どんな声の調子で価格を言うのか。特に伝えたいことを伝えるときにどんな間を取るか。それが成否を分けると言っても過言ではないんです。

 伝統芸能の能と比べるなんてちょっと次元が違うと思われるかもしれませんが、そのくらい、今の時代にもつながることがあると思っています。

 他にも世阿弥の考えをいくつかご紹介しましょう。
 能は即興的、偶発的に完成されるものではなく、観客の数や舞う場所、季節、温度や湿度までを頭に入れ、最善の環境を作ってから舞い出さなくてはならないと言います。

 これは能だけではなく、現代の仕事においても間違いなくあてはまるものですよね。周囲の環境やデータをしっかりと調べ、一番伝わる方法で進めていくことが求められるのです。

 また、テレビショッピングを長くやっていると、つい同じような演出ばかりしてしまうことがあります。特に、一度成功体験を得てしまうと、それを何度も繰り返してしまう。でも、わたしはそうならないように気を付けていました。

 たまに突拍子もないこと――画面から突然消えてしまったり、逆にカメラに近寄っていったり――をするのは、同じことを繰り返してはいけない、という思いがあったからです。

 世阿弥も同じことを言っているんですね。「ただ花は見る人の心に珍しきが花なり」。観客に新鮮な印象を与えるものだけが花である、ということですが、好評だからと同じことを繰り返していると魅力は失せてしまう、と言ったわけですね。
 つくづく、室町時代にすごい人がいたものだと思います。

明日の第二十八回の質問は、「Q28.今までで一番ヒットした商品はなんですか?」です。