日本人の約16%が経験しているという鬱病。鬱病は特別な人だけのものではなく誰だって罹る可能性があるものだ。自身も鬱病を患い快復した経験をもち、同じく経験者たちにインタビューを重ねたコミックエッセイ『うつヌケ』を書いた田中圭一氏に鬱病経験談を聞く。

ヒットするとは思っていなかった

――ヒットするという確信みたいなものはあったのでしょうか?

 

 まったく予測していませんでした。実は角川書店さんのWEB文芸誌への連載と同時に、制作費を賄うために「note」というWEBコンテンツ販売サービスを使って、一話ずつ配信していたのですが、毎月2000人、多くて3000人の読者が100円出して購入をしてくれる程度。これは、「世の中の2000人しかニーズのない作品なのだ」と思っていましたね。単行本化されるときに角川書店さんがしっかりとした広報戦略を立ててくれて、田中圭一を知らなくても鬱に苦しむ人に届けば、まあ、3万~5万部はいくかなという夢は抱いていました。ところが、単行本発売直前にAmazonの予約数でベスト100に入りし、あれよあれよと売れていきました。

――世の中のニーズといいますか、鬱に苦しむ人たちが想像以上に多くいらっしゃったということでしょうか?

 鬱に苦しんでいた人が「待っていました」というわけではなく、口コミで広がっていったイメージですね。京都精華大学の特別講義でアスキーメディアワークス発行の雑誌『電撃マオウ』の編集長をお呼びした時に、「どうしたら30万部売れるか?」という質問を投げかけたのです。結局、僕の本はいいところ10万部までしか売れてしなかったですし、漫画家の“勝ち組”“負け組”を分けるボーダーは30万部で、そこで漫画家としてのブランドが出来上がると思っていたので。

 そのとき編集長は、「10万人が2人に紹介したい本、それが30万部です」とお答えくださって、妙に納得したのです。『うつヌケ』も発売当初、ブログやTwitter上で、身近な人に勧めているようなコメントが多く見られました。これはいけるかもという感じはありましたね。

 周りで鬱に苦しんでいる人がいるよ、でもどうすることもできない。『うつヌケ』を読んだら腑に落ちるぞ。じゃあ勧めようとなったのでしょうけれど、発売前はそこまで評価されるとは思っていませんでした。noteで売れた2000人は「面白かった」といってくれてはいたけれど、人に勧めていませんでした。つまり、その2000人は本当に鬱に苦しんでいる渦中にいたということが分かりました。

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