ノンフィクション作家、谷川彰英が名古屋をたどる。寺院の数が日本一多い愛知県。『名古屋地名の由来を歩く』(著・谷川彰英)より、名古屋の街並みの魅力を紹介する。

あわせて読みたい:「ノリタケの森」「ノリタケチャイナ」…一度聞いたら忘れられない陶磁器で有名な街

極楽では狩りが行われていた?

ここが「極楽」への道?

 名古屋人のユーモアか素直さか――。まさかこの世に「 極楽(ごくらく) 」 (名古屋市名東区)という 町名があるとは思わなかった。何か人間っぽい香りのする名古屋の町である。

 しかし、極楽行きはそう簡単ではない。駅でいうと地下鉄東山線の一社駅か上社駅で降りるのだが、そこから極楽に行くのはバスしかない。仕方ないので、タクシーをチャーターして取材に回ることにする。

 もともとこの中心地は「 高針(たかばり)村」と呼ばれていたところで、今でも「高針一〜五丁目」と 「高針台一〜三丁目」がある。その隣には「 勢子坊 (せこぼう) 」というこれも何やら意味ありげな町名が続いている。  

「高針」で注意してほしいのは「針」である。これを文字通り「縫い針」をイメージしてしまってはその由来はわからない。この場合「針」は「治」のことで、もとの意味は「開拓」のことである。西日本には特に「治」を使う地名が多く、多くの場合「ばる」 「ばり」と読む。「今治(いまばり)」などはその典型である。だから「高針」は「開拓された高地」という意味になる。

「勢子坊」という地名はまず「勢子」に注目したい。 「勢子」とは狩猟で鳥獣を狩り出したり、逃げるのを防いだりする人夫を指す言葉である。ということはこの地一帯で昔は狩猟が行われていたことになる。

 このように見てくると、この土地がどんな地形のところかは自ずとわかってこよう。名古屋市の東の外れで小高い丘陵地が広がり、高級住宅地と呼べるような家々が続いている。

次のページ 「極楽小学校」「極楽苑」「極楽のりば」