戦後民主主義のヒーローとしての信長の真実の姿は歪められている?真実の信長像を知ることで、新たな日本史の歴史観が構築される! 気鋭の保守の論客倉山満が挑む新境地! .絶賛発売中の『大間違いの織田信長』(KKベストセラーズ)を上梓した、倉山満氏が人間信長の魅力に迫る!

信長は成功体験を捨てられた!

 

〝信長天才説〟の代表としてとりあげられる、桶狭間の戦いがあります。少数の兵で大軍に勝った戦いです。一説には、三千人で二万五千人の敵を倒したとか。細かい話はここでは飛ばしますが、信長はなぜ勝てたのか。

 一言で言えば、マグレです。色々な人が色々な理屈をこねますけど、紛れもなくマグレです。マグレとは、再現不可能という意味です。

 よく経営者が成功体験自慢をするのを聞きますが、「それ、百回連続でジャンケンに勝ったようなものだろ! 他人が真似できないし、アンタだって同じ状況でもう一回それやっても、絶対に成功しないだろう!」と言いたくなるようなことは一度や二度ではありません。偶然に基づく成功体験に固執したのが滅びの原因になるなど歴史を紐解けば枚挙にいとまがありません。典型が大日本帝国です。日露戦争は奇跡の勝利の連続でした。ところが、四十年後の大東亜戦争でも同じことを繰り返しました。最も愚かだったのは、陸軍大臣で後に首相も兼任した東條英機です。「アメリカは強大だというが、日露戦争のときの戦力差はもっと大きかった。やってみなければ分からん」などと、算数ができるのかどうかすら怪しい理屈を振りかざしていました。とはいうものの、普通の人間は成功体験にしがみつくものですが。

 信長の凄味は、成功体験をスパッと捨てられることです。「こんな偶然、二度とないんだから、もう二度とこんな戦いをしてはならない。ああなる前に何とかしよう」という発想になるのです。桶狭間以後の信長は、戦いの前に必ず敵に優る数を揃えることに腐心するようになります。兵がいなければ集めればよい。信長は金で雇った兵隊、傭兵に依存するようになります。弱いんだから数を集めなければならない。そのための金をひねり出さねば、というわけです。

次のページ 強い相手がいたら戦わない