イラスト/フォトライブラリー
『江戸の性事情』(ベスト新書)が好評を博す、永井義男氏による寄稿。

 洒落本には、吉原など遊里の生態を活写したものが多い。
 そんな洒落本のひとつ『青楼色唐紙』(文政十一年)に、吉原の遊女綾衣と唐松が客の男をめぐって大喧嘩をする場面がある。以下、わかりやすく書き直した。

 綾衣は唐松に向かい、「ええ、よく人を馬鹿にしなんした。泥棒め、畜生め」と言い、悔し涙を流す。
 唐松が言った。
「綾衣さん、なんざますえ。訳も言わずに畜生の何のと、人聞きの悪いことを。よしてもくんなんし」
「ええ、白々しい」
 綾衣はやにわに唐松の髪をつかんで、その場にねじ伏せ、枕を手にして殴りかかる。

 ここで、映画『幕末太陽伝』(川島雄三監督・昭和三十二年公開)を思い出した。品川の女郎屋を舞台にした映画だが、やはり遊女同士がおたがいに髪の毛をつかんで振り回し、大喧嘩をする場面があった。じつに迫力満点の、すさまじい光景だった。

 遊女同士の大喧嘩はけっして珍しくなかった。
 もちろん現代の職場でも、仲の悪い女性同士はいるであろう。しかし、口喧嘩くらいはあるとしても、まさか職場で女性職員が髪の毛をつかみ合い、手近にあった文房具で殴り合うなど、まず考えられない。
 これはべつに現代の女性が「知的で上品」だからではない。要するに、環境に原因がある。