甲子園が終わった。広陵の中村奨成がホームラン記録を塗り替え、仙台育英対大阪桐蔭では9回にとんでもないドラマが起こるーー。高校野球を取材し続ける「高校野球ドットコム」は、生徒たちの葛藤や悩み、嬉しかったことや監督などとのやり取りを克明に記した「野球ノート」を取材し続ける。それをまとめた『野球ノートに書いた甲子園』と題した書籍シリーズはこの夏第五弾、総部数17万部を超えた。
高校野球ドットコム編集部に、第五弾に収録されたチームから取材秘話を記してもらった。甲子園に出れたチームも出られなかったチームも、同じようにひたむきな姿があるのだ。

異色の経歴監督

 

 2016年、球界関係者は「清宮幸太郎」に色めき立っていた。甲子園でどんな活躍をするのかーー。しかし、それを目にすることはなかった。準々決勝、敗退。下したのは甲子園経験のない八王子高校だった。

 勢いそのままに甲子園初出場を決めた八王子。強豪私学に対抗し自身たちを「ありんこ軍団」と称する。率いるのは安藤徳明監督。いつも選手の内面を考えて指導をされる方で、じっくりと話を聞いてみたい指導者だと思っていた。だから今回、野球ノートに書いた甲子園5で取材をさせてもらえたことは、大きなチャンスだった。

 安藤監督に野球ノートや指導者人生について話を聞くと、かなり濃い話を聞くことができた。その中身については、ぜひ「野球ノートに書いた甲子園5」を読んでいただきたいが、その中で一つ面白いエピソードを紹介したい。

 安藤監督は中学教諭から教員人生をスタート。野球部、女子バスケットボール部の教員になった。2校目となった町田市立堺中学校に赴任してバスケットボール専任の顧問となったのだが、赴任時、その前から野球部の顧問をしていた先生に安藤先生は野球部をやるんですか?」と尋ねられた。その先生も野球部に意欲があったのだろう。日体大野球部出身の安藤監督の存在に不安になったのかもしれない。
 あまりの勢いに、「大丈夫!野球部はやらないよ!」と返したが、安藤監督の中で公立高校の教員を目指したい思いがふつふつと沸いた。教員採用試験が近づいた夏のこと。安藤監督は、八王子球場で、西東京大会を見ていた。その試合は熱戦となった。あまりの熱戦に安藤監督はトイレ休憩することなく、試合を凝視していた。試合は延長戦となり、ここで安藤監督はトイレに向かったが、ずっと座っていたせいで足がしびれて安藤監督は階段で転倒。捻挫もしてしまうケガだった。

「すぐに採用試験で、足を引きずったまま向かったんです。実技があったんですけど、全然ダメで、もちろん落ちました。あの時、野球の神様が、もっとバスケットを頑張りなさいといっていたのかもしれませんね」――なにせ安藤監督は、この間、まったく初心者でありながら女子バスケで全国制覇をしていたのだ。

 その後、安藤監督の道のりは八王子高校甲子園初出場へと続いた。今夏は昨年打ち破った早実に準決勝で惜敗だった。
『野球ノートに書いた甲子園5』ありんこ軍団が貫くオリジナル野球。欠かせない「考える」野球ノート担当)