加藤一二三氏が「本物の勝負師」と語るのが、故・大山康晴名人。対局での心理戦、会食でのエピソード、座布団のヘコみへの視線……その駆け引きの妙を語る。

大山康晴名人は稀代の勝負師だった

 大山康晴名人が、弟子の有吉道夫九段に「棋士というものは、ある年齢からはあまり考えない方がよい」とおっしゃられたそうです。私は大山名人と125回も戦っていますが、たしかに持ち時間の8割ぐらいしか使っていない将棋が多いんですよ。私以外の対戦相手とも、基本的には持ち時間をあまり使わないで勝たれていました。

 私が思いますに、これは大山名人の勝負哲学だと。特に、後輩棋士と戦う時にスイスイスイとあまり考えないで指すと、相手は「お……。大山先生は自信たっぷりだ。そうか、すべて分かって指しているんだな」と思ってくれるでしょう。反対に、大山先生が自分の時間をたくさん使うと、「そうか大名人でもだいぶ苦しんでいるな」と思われかねない。

 大山名人から直接聞いたわけではありませんが、相手にプレッシャーをかけ、若手棋士に自信を持たせないという狙いはあったと思うんですよ。つまり、大山名人は「勝負師」です。色々な駆け引きができた達人と言えるでしょう。

次のページ 会食の場でも対戦相手を揺さぶる