6月に現役を引退した、将棋界のレジェンド・加藤一二三九段。77歳まで戦い抜いた氏が座右の銘としていたのは旧約聖書の言葉。熱心なクリスチャンという一面を持つ氏にあらためて、キリスト教徒になった理由を聞いた。

30歳手前。行き詰まりを感じていた時にキリスト教徒と出会った

 いろいろなメディアでもお話していますが、私はクリスチャンです。

 あれは30歳になる手前頃でした。当時は、自分の将棋に行き詰まりを感じていまして、棋士として脂の乗る指し盛りの年齢にもかかわらず、勝負は五分五分。棋戦優勝やタイトル戦からも遠ざかっていました。

 その頃は将棋仲間からも「加藤の将棋はつまらない」などと言われていましたね。このままではいけませんから、何とかこの状況を打破しようともがいていました。その頃には「将棋とは何か?」という根源的な何かを追い求めていましたね。

 将棋の本質を突き詰めていくと「将棋とは偶然に勝つものではない」「確かな手、つまり最善手を積み重ねることで必ず勝つことができる」と、その答えを掴むことができました。その頃から、人生においても「確かなもの」を求めるようになったのですね。将棋にもあるのだから、人生にもあるだろうと。

 その頃に出会ったのがキリスト教です。実は少年時代から西洋の絵画や音楽に興味と敬意を持っていました。大人になってからも、クラシック音楽や彫刻、歴史に残る建築など西洋の芸術には強い造詣を持っていたこともあり、キリスト教に親しみを持っていたのです。

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